serial | ナノ デスクトップの光のみが、この引きつった空間を照らしていた。デスクの上には可愛らしいウサギのぬいぐるみがいくつか置いてある。博士が溺愛している動物だ。
時どきマウスのクリック音が鳴る。博士がパソコンに向かいゲームをしているからである。――それも、とてつもなくつまらなそうに。
博士の頭上からは立ち上るたばこの煙が姿を見せていた。

「は、博士」

まるでなにかに気圧されているような女性の声だった。その女性を挟むように両側に直立している男性黒スーツたちも、なにやら動揺したような表情をして俯いてしまっている。女性ももちろん黒スーツだ。三人ともサングラスは胸ポケットから垂れ下がっていた。
……黒スーツ三人組は綺麗に一列並び、博士の返答を待った。
マウスのクリック音だけが虚しく響く。

「あの……ニィ博士」
「ん〜?」

女性黒スーツが再び呼んで、やっと返事が返ってきた。だが博士はデスクトップに体を向けたままだ。

「報告します」

最後にそう言うと女性黒スーツは「報告を」と呟いて右隣の男性黒スーツを肘で小突いた。右隣は「あ、あぁ」と自信なさげに呟き返して、ごほんと咳払いした。

「た、たいへん申し上げにくいのですが……、シュナイダー兄弟が目標捕獲に失敗したそうです。……申し訳ありません」

右隣は深く頭を下げると、中央と左隣も同様に頭を下げた。
部屋の中がシン――と静まりかえり、たばこの臭いのみが空間を漂う。そしてしばらくすると、椅子の軋む音が鳴った。博士は回転して三人の黒スーツたちと正面を対した。

「……君たちさ、今の僕の状況はわかってる?」

頬杖をついて大きくため息を吐いた。
三人は怒鳴られると思って身を硬直させていたが、博士独特の声色のせいか、逆に空気が緩みだした。
頭を深々と下げたまま、

「はい、承知しております」と中央。
「早くアレを捕まえてくれないとさ、力が元に戻らないんだよ。これじゃ僕はただの老いぼれ。でしょ?」

少しふざけた口調で言って、両手を左右に広げ首を傾げた。たばこをくわえている唇は怪しく微笑んでいる。

「はい、すみません……」と右隣。
「イエス……」と左隣。

中央は悔しそうに唇を噛み締めている。彼女にとって任務失敗は最大の羞恥だった。

「で、さぁ。シュナイダーブラザーズくんたちは、君ら三人の部下かな?」

博士は中央の女性黒スーツをまじまじと見つめながら、なにか思案するように顎に手をあてて言った。

「そうです」と中央。
「ふ〜ん、そうなんだ。……そういえば三人とも物凄く顔色悪いよ? だいじょーぶ?」

顔色が悪くなるくらい、この報告をするのに神経と覚悟が必要だったということだ。非常なほどの反省の色が伺える。

「ちゃんと反省して偉いよ。だけどね、それだけじゃ駄目なんだよね〜」

と頭をぽりぽりとかいた。
「は、はい」と中央は恐る恐る博士に視線を移した。
博士はなぜか、にっこりと笑顔を浮かべた。

「うん、とりあえず両側の男たちは出て行っていいよ」
「え? で、ですが……」と右隣。
「イエス」と左隣。

左隣は躊躇する右隣の腕を引っ張り、素直に部屋から出て行った。
二人きりの空間となった。
博士の視線はすでに怪しい輝きに満ちている。

「君、名前は?」
「……キアラ、と申します」
「へぇ、いい名前だね」
「と、とんでもありません」

女性黒スーツ――キアラの黒髪ポニーテールが可愛らしく揺れた。

「じゃあ、さっさと脱いで」
「――え?」

博士の言葉に、キアラは一瞬思考が停止した。

「今回の任務は失敗に終わった。償いは上司である君がするべきでしょ?」

灰皿にたばこを押し付け、立ち上がる。博士はキアラの目の前まで迫り、指先を顎に置いてくいと持ち上げた。

「だからはやく脱いで」

そう言われて、キアラの頭に中には『抵抗』という言葉は生まれてこなかった。
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -