serial | ナノ ゆっくりと光が視界を支配していく最中、その中に真っ黒い影が入り込んできた。それの正体を確かめるように探るように手を伸ばした。まるで、カラスみたいな……黒で……ん? でもカラスってこんなにふわふわしてたっけ?
それはどんどんと近づいてきている。
どこからか、ギシリというなにかが軋む音が耳の中を走り抜けてきた。
瞳がぱち、と全開する。

「……ちょっと」
「あ、やっと起きた」
「なにしてんのこのヘンタ……」

変態、と言いかけて、言葉に詰まった。
そういえば、あれからどうなった?
黒スーツに捕まって、気を失って、それから……、それから? どうなった?

「う、うこ……く?」
「ん? なに?」

今、目の前に彼がいる。いつもの何を考えているのかわからないような微笑みを浮かべて、私の目の前にいる。
意識も体もだんだんと現実に引き戻されて、やっと脳みそが生き返った。

「うこ、うこ……烏哭ぅぅ!」

烏哭の頭を掴んで、勢い良く抱き寄せた。涙がぼろぼろと溢れ出てくる。やっと烏哭に会えた。彼の顔を見れた。きちんと声も聞けた。暗闇の中でどれだけ烏哭の名を叫んだことか。それはもう声が枯れ喉が潰れるくらいに決まってる。
烏哭の体温を全身で感じる。

「よ、よかっ……よかっだよ烏哭ぅ、無事でよがっだぁぁ」
「わ、わかったから一瞬離して」

烏哭の頭から腕を離して、目をこする。鼻水も垂れ流しだった。

「ふう。意外とあるんだね、ぜい肉」
「胸と言え!」

叫んでから、上体を起こして、目の前に座った烏哭と対峙する。
彼の顔を見ていると、また無意識に涙が出てきてしまう。なまえは顔を俯かせて目をこすった。

「ねえ、なまえ。泣きすぎ」

そんな笑いの含んだ言葉が耳元から聞こえた。そんな風に笑われるといつもは苛立つのに、今はそれさえ心地よい。

「だ、だって、う、烏哭、無事だったから」
「……うん」
「あいつらに襲われたとき、ほんとに怖かったんだよぉ……」
「うん。……なまえ、僕を見てごらん」
「へぅ……?」

間抜けな声と共に顔を持ち上げた。
温かい手が優しく両頬を挟んだ。

「う、うこく?」
「ほんっと、君って子は」

微笑が言った。
漆黒の瞳が距離を縮めてくる。
息がかかった。

「どれだけ僕を揺さぶれば気が済むんだ」

すると。
それが重なる瞬間から全て覆われるまで、しっかりと感触を記憶させられた。
ぼっと顔が熱くなって、それは体中を駆け巡った。
ちゅ、と唇の鳴る音が聞こえた。同時に、理性が欠片になっていく。
なにかの決心か、なまえは烏哭の腕をぎゅっと掴んだ。

「なまえ……やっと声聞けた」
「っん」

もやもやとかすんでくる意識。
上体を倒され、上から烏哭の体温がのしかかってくる。首筋で彼の唇がうごめいて、肌を吸われる。

「ひ、ぁっ。ね、ま、待って、烏哭……。ねぇ、…………あれ? 烏哭?」

烏哭の動きが突然止まった。体を起こすと、ずるりとベッドに落ちた。

「う、烏哭!? って寝るのかよ!」

見事にいびきをかいて寝ていた。

「あ……」

もしかすると、烏哭はなまえが目覚めるまで一睡もしていなかったのかもしれない。
だったら寝落ちしても仕方ない。

「ありがと」

照れくさそうに呟いて、烏哭の傍らに寝転んだ。

「Good night」
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