serial | ナノ 『烏哭、なんで私を、その……拾ってくれたの?』
『あ、そういえばなんでだろう』
『なんだそりゃ……』
『ん〜、なんかね、なまえの目を見たとき、』
『見たとき?』
『セックスさせてくれるかなー、なんて』
『殺す!!』

日本生まれ外国育ちのなまえ。
日本で生まれたというのは、親が言っていたから覚えていた。
烏哭に拾われたのは、親に捨てられて間もない頃だった。





チリンチリーン。

「烏哭ー、大丈夫? 疲れてない?」
「あ、あはは、疲れてないわけないよね僕の姿を見て」

そこら辺に置いてあった(落ちていた)自転車を拾って(盗んで)烏哭にこがせていた。後ろにはなまえが乗っている。先ほどから、緩やかだが傾斜を上っている。これがまた辛いのはなまえも重々承知。烏哭もぜぇぜぇと息を吐いていた。

「私にできるのは応援くらいだね頑張れ!」
「あ、後で覚えといて」

烏哭は力なくそう言った。
そんなこんなで一生懸命こいだ結果、やっと傾斜がなくなった。続いてはお決まりの下りだ。

「お、次は私がこごうか?」
「黙って後ろで座っててねなまえお嬢様」

今、東京のどの辺りにいるかというと。上の辺り。たぶん。まあ、スタートもゴールも存在しないこの生活に位置の明白は必要ない。
黒スーツを見かけたら逃げる、ということをとりあえず第一に考えている。……そういえば、なんで追われてるんだっけ?

「烏哭、なんで黒スーツに追われてるんだっけ?」

下りの向かい風が気持ち良い。

「あれ、前にも言わなかったけ?」
「そうだっけ? 忘れた」
「……。なんで追われてるんだろう。僕にもはっきりとはわからないんだよね」
「じゃあ、うっすらとはわかってるの?」
「さあ?」
「な、なにそれ」
「それよりさ、お腹空いた」
「ん、確かに」

そろそろ腹の虫が鳴き始める頃だ。





暗い暗い部屋。
床やデスクの上には、いくつもの書類が散らばっていた。掃除をしたのはいつだ、と聞く気にもならないだろう。
部屋の端っこ。その一台のパソコンに向かっていたのは、白衣の男だった。ふたつの赤い印しが点滅しているデスクトップを見つめながら、その口元は緩んでいた。
扉をノックする音。

「失礼します。お呼びですか、博士」

扉を開けたのは、黒いスーツをまとった男だった。胸ポケットにはサングラスがぶらさがっている。
博士、と呼ばれた男は椅子の軋む音を響かせながら、対立するように黒いスーツの男に体を向けた。

「お腹空いちゃった」

頬杖をついて足を組んだ博士と呼ばれる男は、怪しい笑みを浮かべたまま言った。
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