serial | ナノ
城下を歩むことなど数えるほどしかない。まして妻の付き添いなど。
そう思うと、たまにはこういう娯楽も悪くないと思えた。
「三成様、お空になにか?」
ぼうっと上のほうを見ていた。訳はない。しかし、隣のなまえはそう三成に投げかけた。
「いや」
むしろなにもなかった。そこを飾る雲さえ見当たらない。
「もしかして、あまり楽しんでらっしゃらないですか……?」
ふと足を止めて三成の袖を軽く引っ張ったなまえの声は低く、遅れて見下ろしたその表情は軽くしかめられていた。
「そ、そうではない。私は付き添いだろう」
「付き添いではありませんっ」
「む……、」
今度は訴えるような顔つきで、きっぱりと言われた。三成はそれに少しひるんだ。するとまたなまえはいつもの柔らかな表情へと変わった。表情が豊かとは、このことを言うのだろう。
どうするべきか……、と困っていると、なまえの腕が三成のそれにするりと絡む。三成は体を強張らせた。人々が多くいるこのような街中で妻と馴れ合うなど、知らなかった。
しかし、あからさまに拒むこともできず。
「おい、離れろ……っ」
「なぜです?」
逆に、なぜこうするのか問いたい。
とにかく三成は、他人の目が気になるのである。
「夫婦というのは、こうするものです」
なまえは澄んだ声で快弁した。彼女の頭がなんとなく肩に置かれた。やや驚いて、三成は舌打ちしそうになって、危ういところで飲み込んだ。照れ隠しはうまく繕えなかった。
「あら? 三成様、お顔が」
「赤、くはない!」
「……ふふ、そうですね。少し歩き疲れましたでしょう、あそこの茶屋で休憩しましょう」
なまえに半ば引っ張られるようなかたちで茶屋に向かった。
そこで共に食べた団子は、一度の飯よりうまかった。
あの夫妻が豊臣配下の二人につけられていたことなど、誰も知る由はないだろう。
「あの二人の仲睦まじくなっていく姿はとても見ものだね」
「くく、とくに三成がな」
竹中半兵衛と大谷吉継はそれぞれ団子を手に微笑ましい目で遠くの二人を見物していた。
「なまえくんに引っ張られるんじゃなくて、三成くんが引っ張ってる絵を見てみたいものだよ」
「あの様子では四季が回ろうても期待できぬがな」
「はは、どうなることやら」
二人は小さく笑った。