serial | ナノ
あっという間に夏休み半ばとなった。ぐうたらぐうたら。そんな日々がまだまだ続くなぁ。そう思っていた。――玄関のチャイムに呼ばれ、その扉を開けるまでは。
玄関の前に、

「ヨ」

と手を上げて挨拶する巨大な蛾がいると思ったら、驚いたことにそれは大谷だった。

「え、あれ!? 大谷せんせ……!?」

蛾だったんですか! じゃなくて、ああ、よく見たら普通の大谷だ。なにやら荷物を抱えている。

「どどどしたんですか大谷先生? わざわざ私の家に……って、わぁ! い、い、家康先輩!」

扉を少し開けると、大谷の隣に家康が立っていた。

「やあ、久しぶりだななまえ。会いたかったぞ」
「はい! おひ、おひおひさしぶりです、いひぃ!」

テンションが上がって変な声が出たなまえは勢いよくお辞儀を繰り返した。
まさか夏休みに顔を見れるなんて思っていなかった。三年生は受験やらなにやらで忙しいだろうし。
ああ、それにしても太陽に負けないほどの笑顔がそこに……。眩しいです、先輩。最高にインドアだったなまえには軽く拷問に近い輝きだった。タンクトップから胸の筋肉がはみ出てます、先輩。うわ、腕の筋肉さんが丸見え。
はっとして現実に戻る。

「あ、それでどうしたんです、いきなり」
「海へ行く。準備せい」
「海!? い、今からですか?」
「うむ」

大谷は腕を組んで胸を張った。なんとなくワクテカしてる……?

「で、でも家康先輩とか忙しくないんですか? その、進路とかいろいろ」
「いや、まったく暇だ。三成もいるぞ」
「え? ……うわっ、三成先輩!」

扉をもう少し開けると、それを見て思わず叫んでしまった。一瞬、干上がった三成がミイラに見えたからだ。
麦わら帽子を雑に被った三成が気だるそうに家康の隣に立っている。この熱さに苛立っていることが見るからにわかった。どことなく顔色も悪い。

「なんだ、その叫びようは。私がいて悪いか」
「いいえ滅相もないです! み、三成先輩も海に?」
「ああ。……ええい、さっさと支度をしてこいこののろまが! 熱くてかなわん!」
「まあまあ、そう怒鳴るなよ三成」

突然わめいた三成を家康があやす。こういう季節になると三成は情緒不安定になるようだ。

「ぐぬうぅっ、黙れいえやすぅぅぅう! 涼しそうな顔をこちらに向けるな!」
「はっはっは、わしも熱いぞ?」

家康はきらきらした笑顔で、三成は猫のように毛を逆立てながら、二人は仲良くしていた。
なまえと大谷はそれを傍観する。

「向こうに三成と我の旧友がおってな。ああ見えて奴も楽しみにしておるのよ」
「そ、そうなんですか。でも、どうして私も?」
「死ぬほど暇であったのであろ?」
「は、ははは……よくわかりましたね。じゃあ、準備してきます」
「帰宅は明日の予定だ。近くに友の別荘がある、そこで一夜を過ごせ。ひっひ」
「い、一夜って……妙な言い方しないでくださいよ!」

向こうに行くと長宗我部と毛利という人が迎えてくれるらしい。

「先、ぬしの水着は我が用意した」
「へ? そ、それは一体どういう……。だってサイズとか」
「我は保健の番人ぞ。主の体など、すべてお見通しよ。ひっひ」
「……」

セクハラする蛾など世にも珍しい。









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