serial | ナノ やっとお昼のカレーを作る準備に取り掛かる。
午前中はピクニックランド内の見学で歩き回っただけで特に面白いことに巡り合うこともなく……そこでも皆は仲良くわちゃわちゃしていた。私のそばを離れなかった三成と尼子はいつまでも睨み合いを続けていた。家康も尼子を気にしていたが大勢の女子生徒に囲まれ終始笑顔で接していた。彼は優しいからなぁ。大谷は……バスのときと変わらず女子生徒にちやほやされていた。これらすべて大谷による暗示だと思うのだけれど、私はなぜか、少しさみしかった。

「き、貴様にカレーとやらを作ってきてやる」とどこか素っ気ない感じの三成。
「なまえ、わしが美味しいカレーを作ったらぜひ食べてくれ」と家康。ぜひ食べさせてください。
「なまえ、俺がお前のカレーになってやるよ」とよくわからないことを言った尼子に三成が木刀で殴り掛かっていた。
そうして、私はぽつんと木製のテーブルに腰をかけて、ちょっと離れた調理場でカレーを作り始めている生徒たちを遠目に見ていた。

「なんかあそこだけ空気が違う。てゆか、私だけ暗示がかかってない……?」

そういえばそうだ。私以外の生徒は皆これが普通。――そうか、私だけか。私だけ違うんだ。
唐突な孤独感。自分の体がガラスのように透き通って今にも消えてしまうんじゃないか、なんて思ってしまう。
私は勢いよく立ち上がって、広場のところでなにやらふよふよと浮いている大谷のところへ走った。

「大谷せんせ……ん?」
「なまえか。どうした」

大谷を見ると、その両手にはたくさんのどんぐりが積まれていた。

「どんぐり?」
「カレーに入れると美味そうであろ」
「いやどんぐり食べないし! カレーに入れないでください!」

どうやら大谷はさっきからどんぐりを拾いまくっているようだ。……彼は自分自身にも暗示をかけているのだろうか。

「……先生。後ろ、乗っていいですか」

その声は自分でも元気のない声だなと思った。
大谷は「好きにしろ」と言って少し前に詰めてくれた。靴を脱いで、お尻を乗せる。足を折り曲げて横向きに座った。
大谷はどんぐり拾いを続行する。
ここからでも調理場が見えた。私は折り曲げた足に顔を突っ込んで、目を閉じた。

「先生、私に暗示かけてないですよね?」
「当たり前だ」
「なんでですか」
「かける必要がないであろ」
「?」
「言っておくが、三成もデカいのも我にも暗示はかけていない」
「……え!? そ、そうなんですか?」

大谷は馬鹿を見るような目で私を振り返る。

「だから、かける必要はないであろう。ぬしらにかけてどうするのだ」
「え? あれ? えっと……」
「ほれ、ぬしが馬鹿面さげている間にカレーができたようだ」

待ってましたと言わんばかりに大谷はウキウキしながらテーブルに向かった。





どん、どん、どん。
カレーが盛り付けられた皿が私の前に置かれた。三成、家康、尼子がそれぞれ作ったものだ。とてもいい香りがする。

「う、うわあ……!」

感動の声が上がった。皆が私のために作ってくれたカレー。
私の存在というものが、色を濃くしていくような気がした。

「冷める前にさっさと食え」と三成。
「なまえのために作ったカレーだ。残さず食ってくれ!」と家康。
「俺を食ってくれ」と言った尼子に、包丁を構えた三成が突進した。逃げる尼子を三成が追いかけていった。

「すごく美味しそうです、家康先輩!」
「ああ、美味いぞ!」

その笑顔だけでお腹いっぱいです。
カレーを頬張る。
私の手は、最後の一口まで止まらなかった。
感極まった私は涙ぐんでいた。
カレーの香りが、私を現実に引き戻してくれた。
そして突っ掛かって止まっていた思考も働き始めた。

「大谷先生、私わかりましたよ。そうですよね、わざわざ私たちに暗示をかける必要なんてないですよね」
「であろ。欺くのは、他人だけでいいのよ」

ぼりぼり。大谷は結局、どんぐりをカレーに突っ込んで食べていた。

帰りのバスの中は、行きのときとなんら変わりなく騒がしかった。
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