serial | ナノ
どうして?
なぜ?
どゆこと?
某ピクニックランドを目指して走行するバスの最後尾の席に座っているなまえの脳内では、ひたすらに疑問が唱えられていた。席の隅っこに追いやれているなまえの隣に座るのは、石田三成。そして徳川家康、大谷(輿は横に立てかけてある)と続いている。隣のクラスの尼子と宇都宮もなぜか一つ前の席にいた。というかバス自体一つ前のはずでは。
車内の空気を見ても、なんの変わりもない。クラスの違う生徒ならまだしも、学年の違う生徒が乗っているというのに、周りの生徒たちも先生もそれがさも当たり前かのような空気をかもし出しているのだ。むしろ、この空間には違和感のいの字も存在していない。唯一それに疑問を持っているなまえは、独りの気分さえ感じ始めていた。
……そして、どうしてだかとても親しそうなのだ。
女子生徒が、ここに集まっている。

「大谷先生、肩こってません? 揉んであげますよんっ」
「ほう、そうかそうか」

ここですることじゃない……てかそんなセクハラの眼差しで女子生徒見ないでよ先生!

「家康くんて筋肉すごいよねぇ、かっこい〜!」
「はっはっは、毎日鍛えてるからな」
「ねね、腕相撲しよー!」

おいおい先輩に向かって「くん」てなに「くん」て。
彼は優しいからもちろん笑顔で女子生徒と腕相撲を始めた……空中腕相撲、か。

「三成くん、お菓子食べる〜?」
「……いらん」
「三成ってアーモンドチョコ好き?」

ってとうとう呼び捨てきた!
さすがの三成はきゃっきゃうふふする女子生徒を面倒臭そうにあしらっている。……彼のことだから「誰だ貴様? 馴れ馴れしく私を呼び捨てにするとはいい度胸だ、斬滅してくれる!」なんて言うと思ってハラハラしたのに。
なんだろ、この、取り残されてる気分。なぜこんなにもモテモテなんだろう、この人たちは。けれど、まあ、だいたいの予想はつく。
なまえは深〜く濃〜くため息を吐いた。

「お、どうしたなまえ。つまんなそうだな、遊んでやろうか」

と言って前座席から身を乗り出してきたのは尼子だった。

「え? う、うううん」

横の人たちは忙しそうで自分だけ暇だったので、曖昧ながらも頭を縦に振ってしまった。
すると。

「貴様、気安くなまえに語りかけるな」

視界の端から腕が伸びてきて、壁にドンと三成の手の平が着いた。なまえと尼子の間に隔てりができた。
尼子は威圧するような目で三成を睨みつける。

「ぁあ? てめぇは余所の尻振ってる女でも相手にしてろや、モテ男」

口悪いよあなた……。
なまえの目の前の腕を払おうとする尼子だが、三成はどかない。

「死にたいようだな」

三成のもう片方の手にはいつの間にか木刀が握られていた。
やばい、こ、この人ガチだ……!
ぎょっとしたなまえは思わず二人の間に割り込んだ。

「ほ、ほらもうすぐ着くってさ! 先輩もそんな危ないものしまって!」

三成はちっ、と舌打ちをかました。

「なまえ、後で絶品カレー作ってやるからな」
「ふん、そんなもの捨ててしまえ」

三成はツンと言ってそっぽ向いてしまった。
ああ、もう。
なんか、平和じゃない。
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