serial | ナノ
それから三成に首根っこを掴まれるや否や、屋上に引っ張られ端っこに追いやられた。
校庭に視線を下ろすと、たくさんの生徒たちがいつも通り何事も無く下校している。ああ、平和だな……。それに比べこっちなんて、戦場そのもの。危険な香りしかしてないって、どういうこと。

「うむ。やはり外は冷えるな」
「っわ! お、大谷先生。いつの間に私の隣にいたんですか」

大谷はふよふよと浮きながら寒さをしのぐように手を擦っていた。

「そんなほのぼのした空気をかもし出してないであのふたりを止めてくださいよ〜!」

大谷の肩をガタガタと揺らした。
今現在この空間の中央で、木刀を構えた無鉄砲ふたりが微かな隙も作らず対している。
……あ、あれ、というかどうしてこんなことになったんだっけ。そもそもこうなったきっかけってなんでしたっけ? いつまでもガタガタ揺れてないで教えてください大谷ティチャ。

「死にはせん」
「え!? そんなこと欠伸しながら言うことじゃないですよ大谷先生!」
「我も最近のこの学園にはちとスリルが足りんと思うていた。三成に百円かける。ほれ、なまえはどちらにかける?」
「先生、寝ぼけてませんよね?」

すると、ものすごい圧迫感を思わせる空気が流れ始めた。

「ひぃっ」

なまえは驚いた拍子におかしな声を上げて丁度いい位置にあった大谷の頭にしがみついた。始まる。なにかが始まる。なにかというか、これはもう戦争と言っても間違いじゃないよね。

「さあ、こいよ」

尼子は余裕な面で指をくいと曲げた。

「急ぐな。勝敗はすでに決している」

と、三成。木刀は腰の位置で構えていた。

「言ってろ、カス」

笑いの含んだ尼子の言葉が遅れて聞こえた。
刹那。
木刀の打ち合う音が二回、耳に届いた。

「あ、あれ?」

そしてなまえが瞬きをしている間にいったいなにが起きたのか、三成の立ち位置と尼子の立ち位置が逆になっていた。

「どうした、なまえ」
「い、いい今なにが起きたんですか? いつの間にふたりが逆の位置に……」
「ひひ。凡人の目には見えなんだか」

大谷曰く。
まず先に地を蹴った尼子が木刀を振り上げ、上段からの一撃を三成にくらわせた。だがその攻撃を三成は木刀で軽々と受け止めた。そこで尼子は悔しそうに舌打ち。それが一回目に聞いた木刀音。
尼子は三成に跳ね返された衝撃に身を乗せてそのまま校舎へ入る扉のある壁に着地し、壁を蹴った。三成の頭上から木刀を振り下ろす。三成は身を翻すことによってそれを回避し刹那に尼子が着地したほうへ体を向けて、すでに開始されていた二回目の上段からの攻撃に応戦。またも軽々と受け止めた。そこで尼子は悔しそうに舌打ち。

続いて現在もふたりはちゃんばらをしている。ものすごい迫力だ。

「う、嘘ぉ。一回の瞬きの間にそんなすごい戦いが繰り広げられていたんですか」
「たぶん」
「え!?」
「さあな」
「えー!?」

てきとうな返事しかくれなかった大谷への信頼が少し減った。
あ、あれ……なんでこんなことになってるんだっけ。なんでふたりは戦ってるんだっけ? ああ、もう。
なまえは頭を抱えて膝を地面に着いた。

「なまえ、頭痛か?」
「なんか頭の中がぐちゃぐちゃに」
「我の作った頭痛薬がある、飲め。ただ副作用がひどくてな。飲んだら丸一日、男への欲求が抑えられなくなる。ひひ」
「いりません! それ絶対頭痛薬じゃないですね、わかります」

またもや圧が押し寄せてきた。
三成は後方へ跳躍し、木刀を腰に構え直した。

「終わりだ、尼子」
「それは……てめぇのほうだ、石田ぁあ!」

叫び、尼子は姿勢を低く保ったまま三成へと駆けた。目にも止まらぬ速さだ。だが、三成の口元はつり上がっていた。
尼子は肩の位置に木刀を構え、三成に腹に刺す――なまえは目を強く閉じた――と思った次の瞬間。

ガチャ

「遅くなっちまングゥボァアッッ!!」

え?
尼子の木刀が刺したのは、

「ひ、広綱!?」

宇都宮広綱だった。
三成はずば抜けた運動神経の持ち主であるため、尼子の木刀が触れるか触れまいかのところで飛び上がっていた。三成の背後には校舎へ入るための扉があったのだ。そこでタイミングよく宇都宮が扉を開け勢いよく出てきたところを尼子の一撃を腹にくらってしまった。
というオチ。
三成は何事かと上から覗き込んでいる。

「ちょ、先生、あの人やばいんじゃ……!」
「うむ、我の出番」

大谷はふよふよと校舎へ刺し飛ばされた宇都宮のところへ急いだ。……あのスピードでも急いでいるということを信じよう。





宇都宮はしばらく入院らしい。
尼子は謹慎。
この戦いの決着はお預けとなった。

「先輩って運動神経すごいですね。剣道できる人ってなんかかっこいいなー」
「……今頃きづいたのか」
「はい」
「ふん」

三成は照れを隠すように顔を背けた。
なまえのその言葉で、三成は満足そうだった。
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