serial | ナノ
元気な挨拶をしてきたひとりの男子生徒。
ワイシャツのボタンはすべて外され、中には柄入りの青いシャツ。髪は後ろでひとつに結んでいるようだ。
この顔、どこかで見たことあるような……。
頭を傾げて黙っていると、
「あれ? まさか俺のこと覚えてないのか?」
青シャツ男子生徒が言った。しかも、あきらかに視線はなまえに向けられている。
ちらりと三成を見ると、彼は強面でその男子生徒を睨んでいた。……先輩は人見知りするタイプだから、だいたい初対面だといつもこの様子だ。なんだか猫みたい。
「す、すいません」
男子生徒に向き直って軽く頭を下げて覚えてないことを謝ると、彼は腕を頭の後ろに回して肩をすくめた。
「俺は宇都宮広継。この間、尼子と一緒にいただろ」
図書室の前で、と付け足したところで、なまえは彼の正体を完全に思い出した。あのときの光景が頭の中に蘇った。
「あ……! 思い出した!」
そうだ、図書室の前で会った。こわくなって逃げようとしたら、この人に腕を掴まれたんだ。尼子の隣にいた人だ。
「で、な、なんの用でしょう」
やばい。ここで尼子の話しをしてもらってはやばい。尼子には会いたくなかったけど、この人にも会いたくなかったかも。
すると宇都宮という生徒はきょとんとした顔で三成を指差した。
「……あれ? この人、もしかしてなまえの彼氏?」
「え!? ち、違いますよ! ありえない! というか普通に無理!」
頭を思い切り左右に振った。
「なぜそこまで否定する!」
そう叫んだ三成は無視され、宇都宮は安心したと言わんばかりに笑顔を浮かべた。
「そうか、よかったよかった。なまえに彼氏がいるっていう情報は聞いたことなかったからな。じゃあ、尼子の告白はオーケーしたのか?」
「なに? ……告白?」
即座に反応したのは三成だった。
「おい貴様、どういうことだ? 告白? それはなんの話だ」
「み、三成先輩、なんでもないんです。だから」
「貴様は黙っていろ」
と顔をがしりと掴まれた。
ああ、終わった。
そしてすらすらとまるで自分のことのように話し始める宇都宮。
もう、泣きながら三成に掴まれていることにした。