serial | ナノ
図書室に人がいないのは毎度のこと。カウンターにひとり、うなだれるように長机に突っ伏しているのは図書室を管理する小早川秀秋。三成や家康と同じ学年だ。
小早川を一言で言えば、大福である。
彼はちょっと苦手だ。

「あ〜、なまえちゃんだ。また僕に会いにきてくれたんだね! うれしいな〜」

となまえを見つけるなり立ち上がって腰をくねくねと揺らした……。
やめてくれ。

「ど、どうも小早川先輩」
「あ! だめだよぉ、ぼくのことは金吾って呼んでってあれほど言ったじゃない」
「……はい。き、金吾先輩」

小早か――金吾は腰に手をあてて頬を膨らませた。
それからなまえは、金吾から逃げるように図書室の扉を閉めて廊下に出た。図書室に用があったのだが、普段よりやけにテンションが高かった金吾とふたりっきりの空間に立つのはなにかと気が引けた。
すると。

「おい」

真後ろから男の声がした。
驚いて肩を上下させ後ろを振り向くと、切れ長の瞳が不機嫌そうになまえを見下ろしているではないか。その隣には、柄入りの青いティーシャツを着た男子生徒。
どちらも非常に整った顔をしていた。でも、なんかこわい。

「す、すいませ……」

恐々と呟いて、なまえは扉の前から身を避けた。少し気まずかったので顔を俯かせる。

「……?」

図書室に入るのに邪魔だと思って避けたのだが、ふたりは一向に中へ入ろうとしない。
ちらりと視線を上げると、ふたりはなまえをじっと見つめていた。

「え」

切れ長の目をした人はむすっとした顔つきでなまえを見下ろし、隣の男子生徒は少し微笑みを含んだ瞳でこちらを舐めるように見ていた。
これは当然、恐怖する他ない。
なまえは知らないふりをしてその場から立ち去ろうと身を捻った。その時。

「待てよ」

いきなり腕を掴まれ、逃げることができなくなった。なまえは心臓が早打つのがわかった。全身に力が入る。
やばい。やばい、やばいやばい! こわい! 後ろ振り向けない。なんだこれは。か、かつあげか? 私に恨みがあるのか? 恨みを買うようなことしたっけ? その前にこのこわい男子生徒はどなたですか! どどどうしようどうする!? 逃げる? 逃げるしかないか? に、逃げなきゃ――殺される!?

「宇都宮」

切れ長の目の男子生徒が言いかけた。その時なまえは意を決して、掴まれた腕を振り払った。
そのまま、ダッシュ!
とにかく、逃げることだけを考えた。なにされるかわかったもんじゃない。宇都宮? しるか!

「ぐぶふぅッ!」

なまえは全力疾走で廊下を走り抜けた。のだが、ちゃんと前を見ていなかったせいだ――顔面から人にぶつかった。
自分でも可哀相と思えるようなひどい呻きを上げた。

「貴様、私の背中に……ん? なまえ?」

ぶつかったのは、ひとりで突っ立っていた三成の背中だった。なんて運がいいのだ。いや、悪い。

「はぅぁ、ぁぁ、いたいぃ……み、三成ぜんばい……た、助けてくださぃぃ」
「ふ……なまえ、その前にひとつ教えてやろう」
「え!?」

必死に助けをこいているのにも関わらず、三成は機嫌が良さそうに笑っていた。なんて人だ。
三成はなまえの顔を指差し、嘲笑の如く表情で、

「鼻から赤いのもが出ているぞ」

なまえは一時冷静を取り戻し、素直に鼻の辺りを触ってみる。と、なにかが指についた。
それは――赤い液体だった。

「は、はなぢぃぃ!」
「ブザマだななまえ。私が指を詰めてやろうか?」

三成はそう言って、嘲笑いながら二本の指を鼻フックのように下から上へと動かした。こんなときはティッシュの一枚二枚をくれてやるのが、無難なんじゃないの?
三成はどこまでも意地悪な先輩だった。






ということで尼子宇都宮編突入
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