かわい子ちゃんの味方だぜ



激闘の末。
三郎は最後の瞬間、銀時をうたなかった。

カラクリは自分の意思で、人を、源外を、息子を守ることを選んだのだ。

「源外さん、こっち。

私は今から真選組のところへ戻ってこっちが手薄になるようみんなを誘導しておくから」


その隙に、早く逃げてと促すと源外は疲れ切った面持ちで加恋を見上げた。


「嬢ちゃん、いいんだ俺はもう…」

「何も良くないよ、私が仕事失敗になっちゃうよ。早く」


行って!とその背中を押して櫓の方へ引き返す。

銀時は源外をちらっと見てから、加恋の横を走った。


「おいお前、いいのか?あいつ捕まえなきゃ仕事になんねーんじゃねーの」

「私の仕事は人民とお上を守ることだもーん」


お上は守ったからね。

走りながらそう言う加恋を、銀時はじっと見つめる。


結局お上を守りきったのも、犯人を取り逃がしたのも加恋だった。

いや、彼女はお上もじいさんも守り切ったのだ。

銀時にはそう思えた。



「あっ、万事屋!あいついやがったのか」

「銀ちゃーーん!」


神楽と新八が、こちらに向かって走ってくる姿を見るなり急いで駆け出していった。


「おいあれ、加恋か?
なぁんで万事屋と一緒にいやがる」

「ありゃ、本当ですねィ」


「ただいま〜、そしてみなさんお疲れ様でした」

ぶいっとピースサインで微笑む加恋に、隊士たちがお疲れ様でしたと声をかける。

「俺たち、加恋さんの指示のおかげでうまく動けましたよ」

「ほんとッス!やっぱたまにスゴイ!」

うんうんと頷きながら加恋は満足げに笑っていた。

沖田が彼女に近づくと、隊士たちは無意識にさっと道を作る。


「お前どこにいたんでェ」


すると加恋は、質問に答えずに沖田の目をじーーっと覗き込んだ。


「なんだよ」


加恋は珍しくなにも答えない。

周りの者たちはなんとなく、2人を気にして声を潜めた。

やがて加恋がゆっくり口を開くと…


「おーきたクーン、あんまこの子いじめちゃダメよ?」


ふいに間延びした声がして、加恋の頭にぽんっと手が乗せられた。

その大きくて暖かい手に、加恋は思わず顔を上げる。


「銀ちゃん」

「お前ね、いくらドエスでもそれはいかんわ。

加恋ちゃん泣いちゃうよ?」

「銀ちゃん、私泣かないよ」

「うるせーお前は黙ってなさい、お前のために言ってやってんですよ俺は!」


沖田くんが振り向いてくれるかもでしょ、などと小声で腰をかがめて耳打ちする銀時に、沖田はつかつかと歩み寄った。


「旦那ぁ、親切は嬉しいですがそれはおせっかいってモンでさァ。」


そして何気なく、加恋の頭に乗った銀時の手を払う。

銀時は流し目にそれを捉えた。


「こいつは構い倒すと調子乗るんで、ハナはきくから命令してやった方がうまく働くと思ってねィ」


すると加恋はぱっと顔を明るくし、「褒めた!隊長にほめられた銀ちゃん聞いた!?」と興奮気味に銀時を見上げる。


「うるせーよオメェは」

「おら加恋来い、そんなお人と一緒にいると眉と目の距離が著しく離れるウイルスにかかるぜ」

「オイなに人のアイデンティティー勝手にウイルス症状の一環にしてんだ!!おい!!!」


沖田は加恋の腕を引っ張った。
強引気味に引かれついよろめく。


「いたたっ」

「帰るぞ」

「えっ、待ってよう私まだお祭してない!」

「俺はもう十二分に楽しんだから終わりでぃ」


そんなぁぁ〜〜!と悲痛な声を上げる加恋は、抵抗虚しく引きずられていく。


「ったく、ナンな訳おたくの子。あの子娘さんのこと大事なの?大事じゃないの?」

「俺に聞くな!」


土方は俺がわかったら苦労しねえよと吐き捨てる。

でもな。
はたかれた手を見る。

やっぱ独占欲丸出しなんじゃねぇの?あのサド王子様は。


だけどそれは結局、ペットとしての支配欲なのかね?

残念ながら今回のなかなかかわいそうな様相をみてると、そう思わずにはいられない。


頑張りな加恋ちゃん、銀さんはかわい子ちゃんの味方だぜ。


「ん?」


隊長に引きずられながらポケットに何かがあることを感じ、中身を引っ張り出した。


『万事屋銀ちゃん』


これ、名刺?

なんとなく裏を返す。

すると現れた、銀ちゃんの達筆な文字を一生懸命読んで。
私は気づかれないようこっそり笑った。


かわい子ちゃんの味方だぜ。

今度万事屋に、お茶でも飲みに行こうかな〜!

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