報告します



ふいに。

銀ちゃんをかばうように、隊士たちの壁が出来上がった。万事屋の2人とともに、横一列にずらりと並んだ様子は圧巻だ。

「おいガキはすっこんでな、死にてーのか」
「あんだと、お前もガキだろ!」

真選組と万事屋…犬猿の仲とも言える両者はいがみ合いながらも、決してその列を崩そうとはしない。

「そういうことで、俺たちも残念ながら一般市民は守らにゃならんのでな」

わなわなと怒りに震えるマムシに、はっとニヒルな笑みをこぼすと、土方さんは合図を出した。


「総員、突撃!」
「上等だコルァァ、てめーらから消してやるよ!」

「消されるまえにお前らを消してやるアル!」

真選組につづいて万事屋も走り出す。

ふいに、声がした。


「新八…木刀持ってきただろーな?」

返事を仕掛けた新八くんが、驚きに満ちた目で振り返る。

「すんませーん工場長、今日で仕事辞めさせてもらいまーす!」

「ぎっ、銀さん!!」

「やっぱ俺ァ、こいつの方が向いてるらしい…」

銀ちゃんは、私のよく知る美しい身のこなしで空を飛んだ。

「自由、ってやつがよ」

しなやかな木刀をお手本みたいに綺麗な姿勢で構えて、大砲をめがけて。

「おせわになりましたっ」

木刀の切り裂く鋭い音のあと、地鳴りのような轟音とともにマムシ工場は景気良く爆発した。


土方さんがすぐに平隊士たちに確保を命ずる。

神楽ちゃんと新八くんは、銀さんが着地するやいなや破顔して彼の方へ突進していった。


「あーあー、はしゃいじまって」
「銀ちゃん、記憶戻ったみたいでよかったね」

その3人の後ろ姿をぼんやり見つめていた。
隊長が不意に横に肩を並べてきて、私に尋ねる。

「お前、旦那に会いに行ってたのか?」
「あぁ、うん。」
「いつ?」
「こっち帰ってすぐ。昨日かな?」

答えながら何の気なしに隣を見た私は、少し驚いてしまった。

隊長は、笑っていた。



「ふーん?」


こんなに、人の動きを止める笑みなんてあるだろうか?

そんなふうに思ってしまうほどの顔。私は思わず上半身を引いて口を開く。

「隊長…なぁに、どうしたのその顔?」

「ハー、俺ァやっとわかりやしたよ旦那。あんたってお人は、本当に、つくづく殺すのが楽しみになる男だ…」

俺旦那のこと、大好きですぜ。


その言葉の、ニュアンスを一ミリでもいいから私にも向けて欲しいところなのだが、今のはきっとそういう恋人に向ける類のものとは異なるのだと一生懸命考えついて、私は口を閉ざした。


「このペットにももう少ししつけが必要らしい」
「しつけ…」
「安心しな、縛り付けるつもりは微塵もねーから」

私はほんとは、縛り付けるくらいの執着を見せてもらったって構わないのに。

ううんほんとはそれを望んでるかもしれないのに…

「放し飼いの忠犬ペット。それが一番の、究極の調教だって
お前もそーは思わねぇか?」

「んと、調教のことは私詳しくないから…」

ひたいに汗を浮かべながら、究極のドSスマイルで私に迫る隊長に、ひきつる口元で告げる。

私ってなんか、またマズイことやらかしたんじゃないだろうか?

それが何なのか、いつも瞬時に見抜ければ苦労はしないのだが…


「ま、なにはともあれよかったな旦那の記憶が戻って。

近藤さんとザギも無事みてーだし、とりあえず一件落着だ」
「そうだね」

わたしたちはしばらく無言で、じゃれあう万事屋の面々や確保に向かう隊士たちの様子を眺めていた。

いつの間にか、青かった空にはほんのり茜がさして、見とれるような美しさをみせている。

「隊長」
「あ?」

私がキオクソーシツになったら、隊長どうする?
万事屋の3人の姿を遠く見つめながら、ふと何でもない質問をしてみた。

すると隊長は、てっきり無視するかと思ったのに鼻を鳴らしてこんなことを言う。

「ほとんど常時記憶喪失みてーなもんだろオメェはよ」
「そんなことないもん!」

「お前みてーなやつはな、記憶なんて有ろうと無かろうと関係ねぇよ。
お前は記憶をなくしてもきっと加恋だ。

ほっといてもまた勝手に俺についてくるに決まってるさ、忠犬の如くな」


それはものっすごい自信に満ち溢れた、呆れちゃうような言葉だったと思う。

でもそれはフツウの人にとってのことだ。


忠犬の如く隊長にゾッコンの私は、それを聞いて何とも言えない喜びにはにかんだ。

私が真っ白にリセットされても、隊長は私がそばにいてもいいと思ってる。

きっと私をまた拾って、一からしつけてくれるんだって、それがわかったから。


銀ちゃん、私大丈夫みたい。
色々報告しようと思ってたけど、今はまだーーー

もっともっと、素敵なことが起こったら。

その時は今度こそ、嬉しい報告にまとめていこう。
死んだ目をした、いつものあなたに。



報告します

嬉しいお話があったので、もっともっと集めてまた馳せ参じます。

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