報告します



「くそッどうもしまらねぇ…仕方ねーな」

トシはすっと右手をあげると、大砲用意、と近くの隊士に声をかけた。

程なくして、ガラガラと大砲が引かれて配備される。相手方のものに比べると大分小ぶりだが、威力としては問題ない。


「……いや、そこじゃなくて」

隊長が引いて来た大砲の先端はは寸分たがわずトシの後頭部に設置されていて、トシはわずかに振り向きながらつっこんだ。

「…えっ」
「なにビックリしてんだ、こっちがビックリだわ!」

目にも留まらぬ速さで隊長の頭にハリセンを食らわせていたトシだったけど、次の瞬間原田さんの叫び声に目を見開くこととなる。

「副長ォ、あれを…!」

「アッ、銀ちゃん!」

思わず声を出してしまった私は、隊士たちの白い目に我に帰って口を抑える。
銀ちゃんの両隣には、探していた近藤さんとザキもいたのだ。

予想外の人物思わず叫んでしまったけど、私は真選組としてふさわしくない発言を後悔した。

「ハッハッハ…
うちたければ撃てばいい、こいつやも道連れだがなァ、ククク…」


ドォォオオオン!
爆発音とともに、カッとあたりが、白い光に包まれて私たちは目を覆った。

「総悟ぉおおおおお!なんで撃った!?」

「いやねィ昔、近藤さんが
おれが敵に捕まるような事があったら、そんときゃ迷わずおれを撃てって…」

「近藤さん…」
「言ってたような言わなかったような…」

「近藤さんんんんん!」
「んなアバウトな理由で撃ったんかィィ!」

私は思わず前に身を乗り出して、立ち込める煙の中で目を凝らした。

遠目から見る限りだけど、どうも銀ちゃん、まだ記憶が戻っていない気がする…

それだけでもがっかりだと言うのに、こんなことに巻き込まれてるなんてあの3人をどう助けたらいいのかさっぱり算段がつかない。

「あっオイ、3人が抜け出してきたぞォ!」

「トシっ、いまなら撃てる!」
「よし大砲、撃て!」

それが合図だった。
相手と真選組の、砲撃の応酬が始まる。

双方から容赦なく打ち込まれる砲丸の雨の中を、逃げた3人ははりつけられていた板に縄を打たれた状態のままで逃げ惑っていた。

「銀ちゃんっ、近藤さん!こっち!」
「あっ加恋さん来てたの!?てか俺は!?!」

ドォン!
地響きがして、ひときわ大きな爆発がおきた。

破壊された建物の瓦礫がこちらへ飛んでくるのを見て、私は無我夢中で駆け出す。

「あっ加恋ちゃん!」

近くにあった鉄パイプを掴んで私は高く跳躍した。

瓦礫を打ち払おうと空中で舞った時、私の反対方向から近藤さんたちの方へ迫る砲弾に気づく。

「危ない!」
「くそっ」

私の叫びにいち早く気づいた近藤さんが、2人を庇いに飛び込むのが見えた。


「近藤さんっ!」

パイプを思い切り振りきって瓦礫を砕くと、私は爆風を受けて後方へ吹っ飛んだ。

「加恋!」

背中をトシと隊長に受け止められて、衝撃のままに3人まとめて後ろへひっくり返る。

その間ザキの悲痛な声が聞こえて、私たちはドラム缶の後ろから様子を伺った。

「局長、局長ーー!!」
「どうだ見たか、蝮Zの威力を!これさえあれば江戸を焼け野原にできるぞ!」

意識を失った近藤さんを前に、両手を天に掲げて雄叫びをあげるマムシ。

隣の土方さんの刀にそっと手をかけようとすると、目ざとく手首を掴まれ止められてしまった。

「ハッハッハ、さあーどぉーしたかかってこい、時代に迎合した貴様ら幕府の犬などに倒せるのならばな!!
ワハハハハハハハ!ハハ…

ハ?」

私たちの前に、立ちはだかる勇ましい影が2つあった。

「撃ちたきゃどーぞ」

「江戸が焼けようが凍てつこうが知ったこっちゃないアル」

その影は、依然蘇らない記憶と状況に混乱し苦しむ銀ちゃんをかばうようにしてたつ。

私と背丈の変わらないその2人に、目を見開いた。

「でもね、この人だけは撃ってもらっちゃ困りますよ」

「新八くん!神楽にゃん!」

2人はどこで何をしていたのだろう、そもそも銀ちゃんが1人でこんなとこで作業着きてると言うこと自体考えたらおかしな話だ。

「2人ともどこいってたの?!銀ちゃんが…」
「オメーのせいアル!」

頬に青筋を浮かべた神楽ちゃんに突然胸ぐらを掴まれて、後ろの隊長が「オイオイ」と鬱陶しそうな顔で止めようとするのが目に入る。

「お前がなぁ、勝手に押しかけたくせに記憶喪失とわかった途端帰りやがったせいで、銀ちゃんはスネて万事屋やめるとか言い出してしまったアル!」

「えーっ私のせい!?」

揺さぶられながら私は自分を指差すと、「他になにがあるネ?!」と凄まれる。

「依頼人が話もせず帰ってしまったから、銀ちゃんは万事屋続けるのは無理だと思ってしまったんだヨ。

お前のちゅーとはんぱな態度のせいネ」

「まあまあ神楽ちゃん、その辺で…それはほんときっかけに過ぎない、加恋さんが来るまでもなくあのままなら同じ結果になってたさ」

新八くんがフォローを入れてきて、神楽ちゃんを後ろから抱えて私から引き剥がす。

「なんだっていいさ。どのみち僕らは万事屋をやめない、やめさせない。
こうして何度だって、この白髪バカのとこに駆けつけるよ」

「なんで!僕のことはいいって、好きに生きろって…言ったじゃ、ぶっ!」

2人の足蹴りが飛んできて、銀ちゃんは顔を地面にのめり込ませる。

「こちとらなぁ、言われなくてもとっくに好きに生きてんだよ!好きでここにきてんだよ!」

好きであんたと一緒にいんだよ。

2人の静かな言葉が、銀ちゃんの瞳の奥の、光をかすかに揺らした気がした。

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