今思えば、入学からずっと通い続けてきた屋上。
それも今日の卒業で、本当に最後になる。もう、此処へ来ることもなくなるのだと思うと少し寂しさを覚える。





「‥‥‥先生、」






入学のとき、此処へ来たときも彼が最初にこの場所を陣取っていた気がする。

教師なのに、たるそうな顔をしてタバコをふかしてる所をみたら、あたしが今まで守ってきたものが全て無意味なもののようにさえ思えた。


「おォ」

「先生、相変わらずだね。今日、卒業式だよ?」

「あー、そういやそうだったなぁ。たりーな、オイ」



そんなこと言いながら、いつもの白衣は着ておらず、スーツに身を包む銀八先生。

きっと、寂しいのだろうと、あたしにはそう思えた。



「先生ー、あたしね、先生に会えてよかったよ」

「いきなりだな、オメーは」

「ははは。ありがとね、先生」


タバコをふかす先生は、もちろん何も言わなかった。




「先生、あたしねーおっきな人間になるんだぁ!どうかなあ」

「いいんじゃねーの」

「へへっ」

「俺ァ応援してる」






先生、先生、

あたしね

あなたが大好きだったよ。



もし、出会えなかったら

空がこんなにも綺麗で

こんなにも大きいことさえ

知らなかったよ


こんな気持ちになって

初めて恋の辛さと幸せを知った





「先生、天気、いいね」

「‥‥そうだなぁ」

「先生、と初めて会ったときの空に似てる‥」




この空の青さも

あなたを愛したこの気持ちも

きっと忘れはしないよ



「‥そういやァ、そーだったな。懐かしいなァ、オイ」



だって、ね

出逢えただけで

こんなに嬉しい

あなたが笑うだけで

こんなにも愛しい





「銀八先生、ありがと」


先生は、相変わらずタバコをくわえたままだけれど、微かに笑ってみせた。



「さよーならっ!先生!」





そんな風に笑われたら
あたしは何も言えない。

好きだったなんて、
言えるわけがないわよ。




「卒業おめでとさん!‥元気でな」






ありがとう

ありがとう


先生に巡り合わせてくれて

ありがとう


あたし、忘れないから

だから先生も忘れないでね

先生とあたしが
確かにここにいた真実を。




あたしは、もうあの青空を振り返って見上げることはしなかった。 ただ、すべてを胸のうちに詰めて屋上を後にした。



勿忘草

引き止めなかったのは、
君を愛してしまったから

ごめん、ありがとう

さよなら、忘れないでいて






▼企画サイト「楔」様に提供!
ピコの勿忘草をイメージしてみました。なんか違う気するけど、私的にはこんな感じになっています(´・ω・`)


20110401


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