あたしの隣の席の男は、世間一般的に言うと地味という部類に入るのだろう。そのくらい目立ちはしないし、生真面目な性格である。
「山崎、」
そんな彼でも授業中、先生の話を聞いていないこともある。
不真面目になったとか、反抗期だとかそんな単純な理由ではない。
「ここ、当たってるよ」
山崎の机にひょこりと自分のノートを差し出して、ペンで先生が当てた問題をマークしてみせた。
授業を聞いていなかった山崎は、びくっとするもすぐに困ったようにヘラッと笑った。
「ありがと、助かった」
たったそのひとことなのに、顔に熱を帯び始めた。
あっつー。なんて、
両頬を触ってひとり小さく呟いた。
「助かったよ、ほんと!真央ちゃんは頼りになる!」
放課後になった教室で無邪気に騒ぐのは、山崎。
あたしは、そんな山崎をみてため息をついた。
「まったく、ちゃんと聞いてないと評価下がるよ?だから、アンタの名前、さがるなんだよ」
「え‥‥真央ちゃん、それ‥‥関係ないよね?」
あたしは、知っている。
授業中さえも集中できないくらいに夢中になっているものがあること。
「まーた、佐伯さんでも、みてたんでしょ?」
そう、
あたしの隣の席でありながら窓際に座る山崎はいつも、学校の中でも可愛らしいと人気の佐伯さんの姿を追いかけているのだ。
「なっ‥‥な、な、なんで!」
「わ、顔真っ赤。」
「‥‥‥‥るさいな。」
佐伯さんってすごいな。
山崎をこんなにも恋する男の子に変えてしまうんだもの。
「まぁ、釣り合わない、かな」
「‥‥うわ、ひどいな」
頬を赤く染めた山崎は、そんなことわかってる、なんて強がりを吐いている。
「嘘、」
「へ?」
ねえ、山崎。
きっとあたしならアンタのこと大事にするよ。
大好きでいるよ。
「山崎、」
「‥‥真央、ちゃん?」
だからさ、
あたしにしなよ。
「頑張りなよ!山崎なら、大丈夫だよ。」
「‥‥‥へ、」
あたしの言葉に山崎は、ぽかーんとしている。
「帰るのくらい誘いなって!男らしくね。」
「‥‥‥はは、」
ありがとう、そう言った山崎は満面の笑みだった。
ああ、好きだな。
なんて再認識してしまった時点でどうにもならないことを知ってしまったのだけれど。
「山崎‥‥!」
「ん?」
ルンルン気分で教室を出て行こうとする山崎に、あたしは精一杯の声を張ってみせた。
「また、明日‥ねっ!」
好きだから、あたしも精一杯の気持ちで負けないくらいに笑ってみせた。
届くはずのないこの気持ちをどうしようか
一人とり残された教室で、
目頭の熱さを感じながら、
気持ちを押し殺した放課後。
110525
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