「何、泣いてんでさァ」
僕の愛しい愛しい想い人は今日も、瞳にうっすらと涙を浮かべている。
「だって‥ェ!」
「だってじゃ分からねーや。ちゃんと言いなせェ」
「‥‥‥土方くん、冷たいんだもん」
土方。いつもいつも、この女から出てくる言葉は決まって俺の大嫌いな野郎の名前だ。
「一応、付き合ってるのに」
そのたびに俺は、どうしようもない感情に呑み込まれる。
「記念日の話をしようとしたら、また後でなって‥!後回しにしたんだよ、ほんとに!」
「アンタ、あいつの彼女だろィ」
そんなこと言われてもと、彼女は瞳を伏せる。今にも涙が零れ落ちそうな感じだ。
「だったら、オレじゃなくて土方の野郎に言いなせェ」
「‥‥‥嫌われたくない」
「そんなことで嫌う野郎じゃねェーや」
俯く彼女を半ば強引に自分の胸へと引き寄せる。
彼女は、その行動に特にびくともせずに暫くしてから背中に腕を回し受け入れた。
「総悟」
「何でィ」
「総悟は、優しいね」
声が震えている。
気づかないわけが、ない。
「あたし、総悟を好きになれば良かったなあ」
その言葉が、俺にとってどれだけ残酷か彼女は知っている。
背中に回された手が、ぎゅっと強く力を増した。
顔は見えないが、彼女は泣いているのだろう。
「ほんと、アンタには敵わねーや」
「‥‥ごめん、ね」
またあの男が手を差し伸べたら、きっと彼女は頬を染めて幸せそうに笑うのだろう。
「総悟」
そして、愛しく想う野郎の名前を呼ぶのだろう。
「‥‥傍にいてくれて、ありがとう」
ああ
なんてズルイ女
なんてオレは馬鹿な男なんだろう
それでも
アンタが愛しくて仕方ないんでさァ
「‥‥‥好きなんでィ」
そして彼女はいつも、悲しそうに笑うのだ。
きみが必要だからぼくは今日も孤独なのです
▼世界は残酷な癖に、時々優しいから困る様に提出。
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