平穏に過ごしてきた日々を、神様は許してくれなかった。
きっと、そうなんだ。


――それから何年か経って、
小規模で反乱を起こしてきた天人も、いつの間にか私たちの村からそう遠くはない場所までも容赦なく蝕んで行った。
幸いにも私たちの村は、まだ安全な場所であった。



そんな時だった。
銀時に晋助、小太郎が戦へと出るという事実を知ったのは。

‥‥攘夷戦争だ。


「そ・・・なんだ」



あまりに突然の出来事で言葉が上手くでなかった。
ただただ、平静を装うことだけに私は必死だった。


でも、三人の目は真剣でまだ頭の中の混乱もあっていつものように言葉を紡ぎ出すことができなかった。







「松陽先生、私も、」


生半可な気持ちじゃなかった。
それでも、目の前に立つ松陽先生は私に優しく微笑む。


「大丈夫ですよ。」


私が言葉をすべて言い切る前に松陽先生は言う。
優しく、優しく。


「・・・わた、し・・」



――松陽先生、
私怖いんです、
とても、とても怖いんです


松陽先生の着物にしがみつく私をその人は優しく頭を撫でてくれた。
同時に瞳から生暖かい水滴が零れ落ちた。


「・・・っ、こわ・・い、・・んです!」



独りになってしまうのが。
松陽先生を、
銀時を、
晋助を、
小太郎を失ってしまうことが。

自分さえをわからなくなってしまうことが、こんなにも怖い。



「三人とも、あなたの大事な仲間でしょう?」

「・・・っ、はい」


すごくすごく、大事です。
だから・・だからとても怖いんです。


「先生‥‥私、」

「真央さん、私は知っていますよ。あなたは一人じゃないです。」


優しい声色で紡がれた言葉に私の涙は、はたりと止まる。
松陽先生は変わらずに柔らかい表情をしている。

その表情や手に、私はいつもひどく安心している。






――人を護る剣、
いつだか松陽先生が言っていた。

きっと、同じように私にも護る術があるはずだ。



「――‥真央」

「ぎ、んとき?」


松陽先生と別れて、トボトボ廊下を歩いていると銀時が真っ直ぐこちらをみて立っていた。


「ちょっといいか?」

「え‥うん」


私はそのまま銀時の後ろをトタトタと追いかけた。
初めて会った時からいくらか年数が経っているせいか私よりいくらか背の高くなった銀時は、気をつかっているのだろうかゆっくりと歩いている。


「俺、お前には感謝してんだよ」

「へ?」

「‥楽しかったしよォ」


照れくさそうに銀時は軽く頭を掻いている。


「‥‥約束、して?」

「んァ?」

「無事に帰ってくること!」

「‥‥わーったよ」

「それと、私はここで銀時のこと待ってるから。ずっと、待ってるから‥!」


微かにかすれていく声。
銀時は、軽く微笑むとスタスタとまた歩き始めた。

「‥‥‥おう」



私もまた銀時と反対方向に向かって歩き出した。
晋助ときちんと話がしたい、そう思ったからだ。
でも、ふらり探してみるものの中々見当たらない。




「真央のヤツ、知らねェか‥?」

「そういえば、さっき銀時とどこかに行ったぞ」

「‥そうか」


小太郎の言葉に晋助は諦めたように言葉を吐いた。








――結局、晋助と話をすることなく出発の時間となった。


「みんな、無事に帰ってきてね。私、待ってるから‥」


銀時も晋助も小太郎も鋭い目つきから、少し柔らかい眼差しで私と視線を交わらせる。


3人の距離は、私から少しずつ離れて行く。見えるのは、3人の背中だけ―‥。
私は歩き出す3人の背中を見送る。




「真央!!」


少し離れた場所から名前を呼ばれビクリと反応するも、まっすぐ視線を向けるとこちらを振り返る晋助の姿が私の目に飛び込んだ。


――‥晋助、だ。




「な‥に?」

「――――なんでもねェよ」


そんなわけ、あるはずないでしょう。だって、私の名前を呼んだのよ。

ふっ、と口元を緩める晋助に一気に体の力が抜ける。
私はお返しと言わんばかりに、晋助に向かって笑みを零してみせた。





――――きっと、
きっと、また会いましょう。

無事に帰ってきたそのときは、またみんなで歩いた道を一緒に歩こうよ。


―――約束だから、ね。





05 決別のとき


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