晋助の手に引かれ、歩いていると、見慣れた長髪の少し色白の男の人がこちらに向かってきていることに気づく。
──松陽先生だ。
「おや、」
「松陽先生!」
「どこか出かけるのですか?」
松陽先生は優しく微笑み、ふたりに問いかける。
「あの‥!お祭りに行くんですっ!」
「そうですか。仲良しなのですね、あなたたちは。」
真央が一段と目をキラキラと輝かせていうものだから、松陽先生はくすりと笑う。
松陽先生は、そんなふたりの頭を優しく撫でると笑みを浮かべた。
「遅くならないよう、気をつけて行ってきてくださいね」
はい、と真央は元気よく返事をするとまた晋助の隣にタタッと歩み寄った。
──銀時はその様子をしばらく見つめると、来た道とは反対方向に向かって歩き始めた。
「う、おいしいー!このりんご飴!!晋助も食べる?」
「いらねェ」
「おいしいのにー」
晋助が買ってくれたりんご飴に私はかぶりつき一人幸せに浸っていた。
それにしても、
「さっきから、どこに向かってるの?屋台からすごく離れていってるけど‥」
「‥‥黙ってろ」
「むー。‥ハイハイ。」
真央は少し拗ねたようで、またりんご飴にかぶりつく。
りんご飴を買ってくれたかと思うと、その後すぐに屋台のある場所を離れて知らない道へと晋助に手を引かれ進んでいた。
それも少し、上り坂が多いみたいで真央は必死に晋助に引かれながらも後ろついていく。
「‥‥ほら」
ここだ、晋助がそういうと一本の大きな木が私の目に一番に飛び込んできた。
「わ‥‥」
「春になると桜が綺麗なんだぜ」
「‥‥桜」
歩み寄っていくと、そこは小高い丘のようで、ちょうど村の明かりが綺麗にみえてくる。
「わぁ‥!ここから村を見渡せるんだね」
「ああ」
「この桜の木、」
真央は、桜の木を優しく撫でる。
「ずっと、この村を見守ってきたんだね。」
春には満開の桜の花が咲く、そして村を見渡すことのできるそんな丘。
「いつでもこうやって、みんなを見守ることができるなんて本当素敵だよね‥」
真央が小さく呟くが、晋助は何も言わずに村を見渡していた。それを真似るようにして真央村を見下ろした。
「私はここに、いたいな。
最後に自分を飾るなら、私はここでみんなを見守っていたい」
桜が綺麗に咲くという、この桜の木の下で。
「へへ、ありがとう」
何だか照れくさくて晋助の顔をみることはできなかった。
でも、きっと忘れない。
忘れたくない。
ここにいることを私はきっと大切な思い出にするのだろう。
──忘れないように。
04 君と丘の上で