トコトコと廊下を歩いていると、静かに外を眺めている男の子をみつける。
それが誰なのか分かると、その方向に向かって歩き始めた。
歩み寄ると静かにその男の子の隣に腰を下ろす。
「‥‥‥真央か」
「私で悪かったですねー」
一度、私だと確認すると彼はまた外に視線を向けた。
「晋助、何みてるの?」
「‥別に」
「ふーん‥。桜も散っちゃったね。」
「仕方ねぇよ」
「ん、暑くなってきて、もうすぐ夏だもんね。」
「‥‥そうだな」
ついこの間まで、舞い落ちていた桜の花びらは、もうない。
今は緑色を象徴するかのように桜の木は立っていた。
「そういやァ、あいつが探してたぞ、お前のこと」
「‥‥あいつ?」
予想もしなかった言葉に、真央は首を傾げて考える。
あいつ‥って?
「銀、時‥だろ」
「あぁ!銀時かぁ!」
そうかそうかと、真央は納得したかのように頷いた。
晋助が、ゆっくりと腰をあげようとすると真央はすかさずに、晋助の腕を掴む。
「‥‥真央?」
「別に、急用じゃないと思う‥‥し」
「‥‥‥」
「しっ、晋助と話すの久しぶりだし!もうちょっと話そうよ」
特に、晋助は必要以上には喋らないし笑ったりするわけでもない。
最初馴染んだときもそうだったけど、何も言わないで傍にいる、それだけで何故かすごく安心できたし守られてるようなそんな気さえした。
「少しだけ‥」
弱まっていく声の真央に、晋助は諦めたように再び腰を下ろした。
「‥‥ありがと!へへ、優しいよね、晋助は」
「‥‥‥‥うるせェよ」
また再びふたりで静かに外を眺めた。
もう一度眺めるが、やはり桜は綺麗にすべて散ってしまって葉っぱが緑色に色づいていた。
───それから、数日経つと桜の木の変化だけではなく気温もじわじわと上がり暑すぎると感じるくらいになっていた。
ついに、夏という季節がやってきたのだ。
「さて、帰りますかぁー!」
「そうだな」
「ほら、銀時も帰るよー」
「‥あ、ああ」
真央は、いつもつるんでいる銀時、晋助、小太郎に声をかける。
しかし、真央は異変に気づいてはたりと止まる。
「あれ‥」
晋助の姿が見当たらないのだ。
授業が終わって、少し世間話をしていたそのうちに、彼は帰ってしまったのだろう。
「どうした?」
「真央?」
不思議そうに真央の顔を眺める小太郎と銀時。
それに気づいた彼女は、ごめんと言って勢いよく頭を下げた。
「あの、私‥!用事思い出して‥ごめん、先帰るね」
「仕方あるまいな」
「明日は、一緒に帰ろう!」
「ああ、そうだな」
銀時と小太郎は、走っていく背中を見送った。そして小太郎は小さく呟いた。
「忙しいヤツだな‥」
私は村塾を出て、走る。
─まだ、晋助がこの辺りを歩いていると信じて。
すると、少し走ったところで彼の姿がみえた。
「晋助ーッ!!」
大きな声で呼ぶと、彼は一旦歩くのをやめてその場所に立ち止まる。
そして、私はその場所まで走って晋助の近くへと立った。
「‥何で何も言わないの?」
「‥‥は」
彼女の問いに晋助は、何のことだと言った表情をしている。
「何で、何も言わないで、勝手に帰っちゃうわけ‥?」
「‥‥‥」
「晋助も‥一緒に、帰ろうよ!」
そう言うが、また彼は歩き始める。真央は諦めたように後をついて歩く。
「‥‥今日、お祭りなんだって。何か女の子たちが言ってた」
「‥‥‥」
「楽しいのかなぁ。私、行ったことないんだよねー」
喋らない晋助に真央は、ぺらぺらと話を始めた。
その後、わずかな沈黙が続いたがその沈黙を破ったのは、晋助の方だった。
「──────‥行くか?」
たまりにためて、言葉を発した晋助。真央は、びっくりするがすぐに我に返った。
「でも、私、お金とか‥ないし、それに」
「心配すんな」
真央の言葉を遮り、ひとことだけ言うと晋助は真央の手をとり歩いて行く。
「銀時たち、は?」
「ほっとけ」
繋がれた手をみると、私の頬も手もわずかに熱をおびてきている。
───ふたり、か。
そう思いながら晋助の方をみると、彼は静かに明後日の方向へ目を向けていた。
03 小さな恋心