「うん、それでね、私はこう思うんだよね。‥銀時は、どう思う?」
「‥‥‥」
「聞いてる?」
「ふぁー‥‥‥」
この村塾に銀時が来てから、私は彼の世話係というものを松陽先生に頼まれた。
それからというもの、何かと私は隣を歩いている。
「と、いうわけで、銀時くんです。小太郎も晋助も仲良くしてあげてね!」
「‥‥‥」
「銀時、というのか‥?」
「そうだよ、いい名前でしょ」
「真央には聞いておらんぞ」
「むむ‥別にいいじゃないの!」
私がこの村塾に入った当初、一早く馴染めたのが小太郎と晋助だった。
そのため入ったばかりの銀時に二人を紹介するが、近づくなとでも言ったような眼差しを彼は向ける。
──まだきっと、わからないのだ。この場所も状況も環境も、私も、周りの人たちも。
きっと、怯えているのだろう
あの頃の私のように。
「大丈夫だよ」
「真央‥?」
突然、渇いた口調で言う真央に小太郎も晋助も何事かと言った表情で見つめている。
銀時もキョトンと真央の方に目を向けている。
「銀時は、大丈夫だよ」
「‥‥‥‥」
「だって、私も松陽先生もいる。あとね、これから仲良くお勉強する晋助も小太郎もいるから──‥大丈夫なんだよ」
彼もまた、私と同じように一人ぼっちだったのだ。
松陽先生から、彼のことを聞かされた。
でも、本当は一人ぼっちだったんじゃなくて待っていたのだ。未来がわからなくても、──松陽先生という人を。
「ね、銀時」
銀時は、真央の方をみるとと少しだけ微笑んだようだった。
「世話好きなものだな」
「‥‥‥どうだかな」
私は、スタスタと歩いて行く銀時の後ろを追いかけた。
「ねぇ、ねぇ」
「‥‥‥何だよ?」
「銀時は、刀使えるの?私、教えてほしいなー!」
「‥‥やだ」
「ええーっ!‥‥ケチ。」
ぶーっと口を尖らせる真央をよそに銀時は、スタスタと歩き続ける。
「でも、銀時はいつもその刀、大事そうに抱えてるよね」
「‥‥別に、」
「‥剣は、大事なものを護るために振るうんだよ」
そういう真央に、銀時は歩めていた足をピタリと止めた。
真央は、ニコリと笑って銀時の刀を指さす。
「それは、人を斬る武器かもしれない。だけど、それで人を護ることはできるんだよ」
「‥‥人、を‥護る?」
「そう、護る剣。」
「護‥る‥剣‥‥?」
「松陽先生が言ってたの」
銀時は、自分の持つ刀を静かに見つめた。
そして真央は、さらに言葉を続ける。
「私は、剣を振るうことができない。でも‥‥それでも護りたい人は自分の手で護るって、決めたの」
「‥‥‥」
ふっと真央は笑うと、少し自分より背の高い銀時の髪をくしゃりと撫でた。
「‥‥!っ、何すんだよ‥!」
「へへースキンシップ!」
驚いて声をあげる銀時に、真央は相変わらずヘラッと笑っていた。
銀時は、気にくわないといった様子でジリジリとした視線を真央に向けた。
02 人を護るための