それにしても、
あたしはたまに思うのだ。

たくさんの試練が
波のように押し寄せてきたけど
なんだかんだって乗り越えて
今に至るわけで。




「わりぃ。時間だから仕事に戻る。」

「あ、静雄ありがとね!
いってらっしゃい!」

【静雄、またな。】


そして、なんだかんだで
変わった人たちは多いけど
恵まれた環境にいるのだ。



「たまにじゃなくてよ、いつでも池袋にこいよ」

「うっうん!」

「ついでに言っとく、」

「ん?」

「臨也の野郎は連れてくるんじゃねえぞ」

「あ、ハハハ‥‥」


し、静雄‥‥

真央は、鋭い目つきへと変貌した静雄にたいして引きつり笑い言葉を濁した。



静雄が仕事に戻るために、去っていってから公園には真央とセルティのふたりがとり残されていた。


【ひとつ聞いてもいいか?】


しばらく経ってから、セルティがPDAに打ち込み、それを真央にみせた。


「なに?」

【そいつのことは、好きだったのか?】

「‥‥あぁ、」


真央は、少し間をあけてから静かに言葉を紡ぎ出す。



「好き、だったと思う。
けどね、正直わからないの。

ほんとは素直でいたいのに、言えるわけなくて
最後まで泣けなかったくらいだから。」

【何で我慢するんだ?】

「我慢っていうより‥‥不思議なことに、高校まで一緒だった幼なじみたちの前ではありのままでいられるんだ。」

【それは、そいつらのことが信用できて安心できるからだぞ】

「‥‥そ、なのかな」



セルティはきっと心配した顔をして尋ねてきたに違いない。
彼女に首はないため、断言はできないけろうど、真央はセルティの様子をみてからそう受け止めた。




【真央は、まだ臨也が好きなんじゃないのか?】


真央は、ぴたりとPDAの文字を覗き込んでから動きを止めて目を見開かせる。



「わぁわぁわあー!!セルティ、待って、それはない!!」

【そうか?】

「そうとも!‥‥っていうか、"まだ"って言った?」

【ああ、新羅から聞いた】



真央は、盛大にため息をついた。

新羅、それは言ってほしくなかったよ‥‥

そんなん言ってるから、どこかの変態情報屋がつけあがるのよね、きっと。



ぐいっ



「へっ?」

不意に引っ張られた服に、真央の頭はまだついていけない。

しかし、振り返ると、


「何してるの」


少し不機嫌な顔をした男。
それもさっきまで快く言っていなかった相手。

噂をすれば、ってやつだ。





「いっ臨也? そっちこそ何してるわけ?」

感じの悪い彼にたいして真央も、負けじと下がろうとはしない。


「仕事だよ、まったく」

「へ?」

「ちょっと頼まれてくれないかな。」


真央は、"仕事"という単語にぴくりと反応を示す。


「紀田くんっていう少年、沙樹ちゃんでなくてあたしに任せるって?」

「‥‥あのさ、それは、君なんかじゃ無理って」

「うるさい!」



わかってるもん、

嫌ってくらいに。


あたしは雇われてるわけでもないし、役にも立たないだろうけど、

そんな風に強く言われなくても
自覚してるんだから。




すべてを否定されているようで、あたしは辛かったんだよ。