「あ、おかえり」


臨也が帰ってきたことを確認した波江は、静かに声をかけた。



「‥‥‥その荷物は、」

目をぱちくりとさせた波江は、臨也が抱えるいくつかの荷物をみてから尋ねた。


「ああ、鍋しようって真央と話してたんだけど」

「フラれたのね、気の毒に」


まったくそんな表情をみせない波江にたいして臨也は、うっすらと笑みを浮かべた。




「電話してみる」

「さすが、波江さん!」

「私は、誠二と真央にしか興味ないだけよ」


波江のひとことに、臨也はクスクスと静かに笑った。

















「ひゃっ‥!」

嫌だと拒否しただけなのに、
頬に広がる麻痺したような感覚。


「姉ちゃんさあ、いくら可愛くってもよ、口答えは許さねえよ!」
「ひゃはははは。」



あのとき、素直に一緒に歩いていればこんな仕打ちはなかったのかな。

ねえ、
あたしが間違ってたのかな。



あたしは、

ねえ


あたし、


ほんとはね、






朦朧とする意識の中、うっすら見えたのは金髪にサングラスのバーテン服の男の姿だった。


















―――― 好き、だった。



なんでだろうか。

自分でも不思議だった。




でも、ね

君の隣が一番安心できた。



素直にはなれないけど、

なんだかんだで離れられないのは
居心地がいいからなんだろね。














「出ないわよ、いないのかしら?」

留守番電話サービスにしか繋がらないため、電源ボタンを押した。


「まったく。」

「何かあったとか」

「波江さん、物騒なこと言うのは止めてくれないかな。」



臨也は、強くそう言ってから家を飛び出した。





「あんな血相変えた姿、初めてみたわ‥‥」

大したもんね、と波江は静かに口元を緩めた。
そして、すぐに荷物を整理し始めてキッチンへと向かった。