あのままあたしは、十四郎に腕を引かれたままただ無言で歩いていた。

十四郎は、何も言わない。
あたしは怖かったのに、ていうより殺されるかと思ったのに。




「十四郎!」

「‥‥‥」

「楽しかった?」



触れてはいけない話題だったのかもしれないけれど、沈黙を破るにはこの方法しかなかったのだ。

自分で聞いておきながら、十四郎が他の女の子と手を繋いだりキスをしたり、抱きしめたり、体を重ねたりなんて‥想像しただけで悲しくなる。涙までもがでそうになる。




「あたし、すごいでしょ!たまたま買ったマヨネーズだけで当たりがでちゃったんだから!感謝してよね、ほんとっ!」


いつもと変わらない感じを保ちながら、あたしは十四郎に話かけ続けた。


「やっぱ、てめェだったんだな。総悟がくれたのは」

「え、うん」

「ほらよ」


やっと十四郎が振り向いてくれたと思ったら、あたしが握りしめたせいで不格好になってしまったチケットを見せてきたのだ。



「な、んで‥!」

「気分が乗らなかったんだよ、わりーかよ」

「だってマヨネーズバカな十四郎がだよ?おかしくない?」

「てめェは、いちいちひとこと余計なんだよ」



ぶっきらぼうに言葉を吐く十四郎の頬は、かすかに赤い。

ああ、やっぱり優しいな。
ああ、やっぱり好きだな。



結局いつも、この人の背中を追い続けて悲しくなっても、必ずどこかでこうやって後ろを振り返ってくれる。




「行かねェならいいけどよ」

「行くっ!」

「‥‥‥」

「十四郎と一緒に行けるんでしょ?」



かなわないなぁ、
ほんとに、もう。



「‥‥もしかして、そのために万事屋きたの?」

「もういいだろ、てめェは黙って歩け」

「へへっ!」



思わず顔がにやけてしまう。
十四郎から迎えにきてくれるなんて、とっても貴重なことなのだから。


「万事屋と、何やってやがったんだよ?」

「え?」


突然歩く足を止めたかと思うと、十四郎が真剣な顔をして尋ねてきたものだからマヌケな声をだしてしまった。


「何もされてねェよな?」

「‥‥‥‥キス、した」

「はァァア!!おっ、おまえっ、何してんだよ!!」


急に血相を変えて、心配しだすものだからあたしはクスクスと笑みを零してしまった。



「嘘、だよー!」

「はぁああ!?てめェふざけてんのか!」



あ、怒った。
相変わらずわかりやすい拗ね方だよね、十四郎は。


あたしは、反省の気持ちも交えて十四郎の背中に腕をまわした。




「十四郎が、女の子と楽しそうにデートしてるんだもん」

「‥‥それ、は!」

「ヤキモチ、妬いただけだよ。ごめんね‥」


ぎゅーっと、あたしより背の高い十四郎に抱きつく。


「‥‥今からでも、行くか」



耳まで赤くする彼をみて、ただ愛しさだけが込みあがってきた。
ほんと、こういうの、鈍いんだもんね。




「行こうっ!」







でも、ごめんね。

ごめんね、十四郎。






もうこうやって
笑って隣歩いたり、
手を繋いだり、
抱きついたり、
ヤキモチ妬いたり、
できないの。




もう、そばにいれない









だから、さようなら

大好きよ、十四郎。




さよなら、My Love

あなたが生きていて
幸せなら
それでいいと思った

だから
さよならしましょう
あなたへの想いと、


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