あたしの足は、いつもと比べものにならないくらいに軽快にステップを踏んでいた。


それもそのはず、



「ドはドーナツのドー!レはレモンのレー!ミはー‥‥なんだっけ。み?みみみみ‥‥?ミはーみかんは甘酸っぱいのにかぎるのミ!!」



先程まで万事屋にいたあたしは、神楽ちゃんと新八くんに十四郎の姿をみかけたのだと教えてもらい今に至るわけだ。
おかげで憂鬱なんて吹き飛んで、雨や嵐さえも吹き飛ばし、輝く太陽のような気分へと変わり果てたのです。



「んーと、屯所方面に向かえばまだ歩いてたりするかなぁ?」



何やかんやでニヤケが止まらない。あたし、きっと端からみたら普通に不審者なのかもしれない。


「あ、」

屯所方面に向かって歩いていると、コソコソと人目を気にしながら路地裏に入ったり出たりする怪しい人が目についた。


「ザキさんんん!!何してんですかッ!ストーカーなんて犯罪ですよ分かってんですか!?」


そのよく知る人物は真央を見るなり、大きく目を見開いたかと思うと後ろに大きく尻餅をついた。



「わっ真央ちゃん!?びっくりさせないでよほんと!!」

「いえ、あたしの方がびっくりですよ。だってザキさんがストーカーなんて、ストーカーなんて‥‥‥‥ママはそんな子に育てた覚えはないわよ!」

「エエーッッ!??お母さん設定!?って、俺ストーカーしてないからね!!それ局長だからァア!」


ザキさん、声おっきいよ!!そんな大きな声をだすから周りの人たち、すごくみているみたいなんだけど。



「ストーカーじゃないの?」

「違うよっ!仕事だよ、仕事。」

「あー監察の?」

「違いまさァ。こいつァストーカーでぃ。」


頭の後ろあたりから聞き慣れた声がしたものだから、あたしは反射的にすぐ振り向いた。
と同時にやはり、予想していた人物がニッコリと笑顔を向けて立っていた。


「総悟ォ!」

「久しぶりでさァ」


そうだね、と真央が笑うと総悟も軽く笑ってみせた。


「‥‥ちょっと沖田隊長!何を堂々とサボってるんですか。」

カチャリ

一瞬の隙に山崎の目の前にバズーカを抱える総悟の姿。


「そっそそそそ総悟ォォ!!落ち着こう、ね‥?」

「チッ」


ん?何か今チッって言わなかった?

マッチ一本火事の元の、マッ「チッ」の部分だよね?いや絶対そうだよ。そうであってほしいもん。



「とにかく隊長、こんなところ副長にみつかったら不味いですよ。」

「真央がいるから大丈夫でさァ」

「大丈夫じゃないから!っていうか、十四郎からの好感度が下がる一方じゃないの!!」


総悟の十四郎に対する因縁にあたしまで巻き込まれたらたまったもんじゃないってば!


「あれ、あそこにいるの副長じゃないですか」

「どれどれー!」

「‥ちょっ、真央ちゃんん!それ俺のあんぱん‥」


あんぱん片手にこっそり覗く山崎をよそに、あたしはその手にあったあんぱんをすかさずに横取りをした。


「ふぁんふぁーふぁーむぐむぐ‥!」

「食べながら喋らないでくださいよ、何言ってるかわからないんですけど」

「土方さんも、隅に置けねーや」


あんぱんを口にほおりこんでいた矢先、あたしの目に映ったのは紛れもなく十四郎の姿。

ただただジッとあたしはその場にたちつくしていた。
握りしめた手のひらにある紙切れはクシャリと音を立てた。



「非番かと思いきや昼間っから女とデートたァいいご身分じゃねェですかぃ」

総悟の口元が怪しく弧を描いた。

「シネ土方ーッッ!」

「‥総悟ッ!!!」



隠れた場所から身を乗りだそうとした総悟をみて、あたしはとっさに総悟の手を引っ張っていった。




「なっ、何するんでぃ」

「いいから!!邪魔しちゃだめだよ、総悟。」

「真央?」



楽しそうにしてたら、他に女の子がいたならあたしの入る隙などないじゃないの。

例え、入れたところで十四郎にとってあたしはただの幼なじみなんだから。



「‥‥‥‥馬鹿、みたい」


だって、ほら十四郎笑ってるもん。いつもみたいに怒ってないし。‥‥あたしには‥‥‥。



「真央ちゃん?」

「真央?」


心配な顔を向けるザキさんと総悟に、あたしは精一杯の笑顔を向けることしかできなかった。




「‥これッ!!十四郎に渡しておいて!一緒に行ってきなって!」


くしゃりと不格好になった紙切れをあたしは総悟に突き出した。そして、そのままあたしは万事屋に向かって、駆け出していた。


まっくらな、まっくらな闇を、あたしひとりで。






誰だってモチをやく

(土方さん、これあげやす)
(は?)
(さっきチッコいアホな女にもらったんでィ)
(‥‥‥チケット?)
(一緒に行ってこいって言ってやしたよ)
(‥!‥テメー何か企んじゃいねェだろうな)
(人聞き悪いでさァ。‥シネ土方コノヤロー)


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