飯に付き合えとトーシローに言われ付き合うはめになり、結局たどり着いた場所は行きつけのお店だった。
「だァアア!!オイ、ケチャップかけすぎじゃねェか!」
「トーシローだって!!マヨネーズそんなにかけて、まるでアレみたい‥」
「あァ?アレって何だよ、アレって」
隣の席の彼は、いつもの"土方スペシャル"をおいしそうに頬張っている。
ご飯にマヨネーズをアレにみえるくらいにかけたスペシャル丼なんてみたことないっての!
胃もたれしたときにこんな食べ物をみたら、胃以外のもっと大切な何かとやらまで浸食されてしまいそうな勢いだ。
「そりゃ、ひとつしかないじゃないの!」
「‥‥オイ」
「なによ?」
トーシローが先程までとは打って変わって、不審な目であたしの手をつけようとするオムライスを眺めている。
「それ、何だ」
「あーコレ?どう?結構アピールできてるっしょ!」
まるで食べ物じゃないものを見るように彼は食い入るように眺め続けている。
ただ、ちょっと大きめオムライスに"十四郎(ハート)真央"と書かれているものを。
「名付けて真央ちゃんスペシャルでーす!」
「まんまパクリじゃねェか、オイィイイイ!!」
あんなマヨネーズを盛り盛りかけてご飯を食べるより異常じゃないと思うんだけれど。
むしろ普通だよね!?
オムライスにはよく好きな人の名前を書いたりするもんね!
「トーシローってば、照れなくていいのにー!」
「照れてねーよ!オレは今日、ほんとならゆっくり過ごす予定だったんだ‥なのにテメェが」
あたしが軽々しく笑って言うと、彼は少し怒った顔をしてそう荒々しく言った。
「あたしは、「すいませーん、カップルの喧嘩は外でお願いしまーす」
あたしがトーシローに言葉を返そうとしたときだった。
隣からなんだかやる気のない声が聞こえてきた。
「ったく、世の中カップルだらけじゃねェか‥飯がまずくならァ」
その男は、一人ブツブツ言いながらご飯を頬張っている。
アレ、でもこのやる気なさそうな声色。どこかで聞き慣れているような‥。
アレ、そのご飯に小豆を乗せる食べ方。どこかで見慣れているような‥。
(‥‥いや、ってかカップルだって!やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい、ケチャップ王妃様ーッ!!)
「やべェのは、テメェの脳内だろーが」
「へっ!!?」
あたしの心の奥の声がどうやら洩れていたみたいだ。
トーシローはすかさず指摘して冷たい眼差しを向けていた。
「‥‥‥‥‥‥トーシロー?」
けれど、その後、彼の動きは一気に止まり目を見開いたままである。
「オーイ、トーシローくーん?」
とりあえず気になったので、あたしも彼が一点としてみている方向を見てみることにしたのだ。
すると、先程のやる気ない声色、そして聞き慣れている声色の正体があたしのよく知る人物であったのだ。
「‥‥銀さん!」
「てめェ‥!!!」
正真正銘、あたしの暮らす家である万事屋の主だ。
ああ、そうだ。
彼らが一緒になってはいけなかった。そう、俗一般的に言う犬猿の仲というものなのだから。
「誰かと思ったら、大串くんと真央じゃねェか。朝っぱらからデートとは妬けちまうねェ」
「うるせェ、テメェに言われたかねー」
ていうか、銀さん。
ご飯に小豆なんてダメ!
ほんと、ないって!それェェ!
「オイィイイイ!!真央ちゃん何したの?可愛い顔して何したの?イヤイヤイヤァアア、銀さん何か悪いことした?何か恨みでもあるの?」
「ぶちゅぶちゅゥゥーっと。」
あたしは銀さんのことなんかお構いなしに、ご飯に乗る小豆に豪快にケチャップを垂れ流したのだ。
「ハイ、糖分の過剰摂取はよくありません。なので、ケチャップと一緒にたーんと召し上がれ!ケチャップ王妃もさぞ喜ぶでしょう」
「糖分とらせろーッ!!つぅか、ケチャップ王妃とか誰なんだよォオオオ!!!」
ケチャップ心、全開。
どうかケチャップを食べて、少しでもふたりが仲良くなりますように。
ケチャップ王妃に祈りを捧げながら。
ケチャップは如何ですか?
(おまっ、これどーしてくれんだよォオオオ)
(何事もチャレンジですよ、銀さん!)
(こんなん食えるわけあるかァア!!!)
(ケチャップよりマヨネーズだろ、ふげさけんじゃねェ)
(もういいからほんと、テメェら、もう黙れってェェ!!)