「お名前、教えてもらっても‥いいですか?」


少し困ったような顔でこちらをみる彼女。
ずっと前から知っているはずなのに、どこか違う様子の彼女に初めて会ったような感覚に陥った。


「‥‥土方、だ。」

「おっおい!!真央!こいつは、」

「余計なこと、するんじゃねェ」


銀時の肩をつかみ、彼女には聞こえないほどに小さく低い声でつぶやく。

でも、と言いかけたところで土方の目をみて気づいた銀時はこれ以上言葉を続けることはしなかった。




「えと、‥土方さん。またちゃんとお礼させてください。」

「いや、大丈夫だ」

「でも、」

「悪いが、断る」


そう言って病室をあとにしようとする土方の背中を真央は、静かにみつめる。


「あ、の‥‥‥
土方さんは、あたしとお知り合いだったりしますか?」



なんだろう、
わからないけれど
土方さんの背中に懐かしさを感じる気がする





「‥‥‥‥‥いや、初対面だ」

気のせい、だったのかな。
でも土方さんの悲しい顔をみると、どうしてもズキリと胸が痛むのだ。


「あ、の‥」


また来てくれますか?

と、問いかけるが土方さんは何も答えることはなく静かに病室から立ち去っていった。





「真央、」

「ねぇ、銀さん」



あたし、何か大切なことを忘れてしまっている気がするんだ。ずっとずっと大切にしてきたようなことを。
そのせいか心にぽっかりと穴があいたみたいな、そんな感じ。

ずっとそれを思い出せないかもしれない、それがとても怖い。





「バーカ、大丈夫だよ。銀さんが保証すっからよ。」

「‥‥銀さん」

「その大切なことが何か、すぐ思い出すだろ」

「うん!ありがとう、銀さん」


よしよし、と真央の頭を優しく撫でる。安心したように真央は微笑んだ。










「土方さん、どうでしたァ?」

「総悟‥‥」

「眼孔開きっぱなしでさァ。もしかして真央にフられやした?」

ニタニタとしているということは、コイツは面白がって聞いてやがる。

「何もねェ」

「それにしても土方さんさっきからイライラしてやすよ?」





俺の記憶だけを切り抜いたように
全部、忘れちまった。
ただそれだけだ。


――――それだけ。





「情けねェ‥‥‥」





君は知らない

くだらない日常も
君がみせた笑顔さえも、
なにも



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