神様は、あたしに罰をくだしたのだろうか。
それは、あたしが十四郎を好きになったから?しつこいくらいに想いを寄せていたから?それよりも、マヨネーズよりケチャップを愛してしまったから?
神様はマヨネーズ派なの?
「‥‥‥っ、うっ」
男の手がやけに心地悪い。
そんな理由はもうわかってて、
やっぱり嫌だよ、
嫌だよ 嫌だよ
神様、あたしは、
「はーい、ストッープ!」
ふいに頭上に降りかかってきた声に、目を向ける。
ああ 聞き慣れた声、だ。
見慣れた人、だと。
「オイオーイ。おたくさー、うちの可愛い看板娘に何してくれちゃってんの。ほんと困るよそういうのー」
銀色の髪が大きく揺れた。
「―――銀、さん」
どうしてここにいるの、
少し時間が経ってからそんな疑問が浮かびあがった。
「よォ。帰ってこねーから心配したんだぞ」
「へ‥‥?」
「そうですよ、僕たち真央さんの帰りが遅いから心配してたんですよ」
「一緒に帰るネ。また真央のご飯食べたいアル!」
新八くんに、神楽ちゃんまで。
なんで、なんでよ、どうして迎えになんてきたのよ。
どうして‥‥‥‥‥‥
「ふっ‥‥‥え」
次第に揺らぐ視界。
新八くんと神楽ちゃんの差し出す手にそっと自分の手を重ねた。
「さーってと、どこの馬の骨だか知らねーけどよォ」
「真央に近づいたらオマエらみんなただじゃ済まされると思うなヨ」
鋭い目つきを向ける銀時と神楽に、男たちはビクリと顔を強ばらせている。
「銀さん、あのね」
あたし、帰りたいな。
またみんなの元で笑って毎日を過ごしたいな。
朝は、十四郎の元に行っておはようのチューをしてからね、一緒にご飯食べに行ってね、ふらふらお散歩したりしたいよ。
「えっと‥‥ね、あの‥ね、あの、たっただいま!」
にへっと笑ってみせる。
それにつられて新八も神楽も銀時もニッと頬を緩ませた。
「おかえり」
ぶわっと流れ落ちる涙を自分の手でごしごしと拭った。
―――そんな時だった。
懐かしいような、愛しいような香り。
と、手に乗せられた大きな手。
「と‥‥‥、しろ?」
そんなの確認しなくてもわかった。だって、それはあたしがずっとずっと求めていた温かさだったから。
顔をあげると、呆れたように笑う十四郎の姿があった。
「バカ野郎が」
「‥‥なっ、」
なんでいるのか、なんてそんなことはどうでもいい。
会いたい人がここにいる、それだけであたしは嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
「何だよ、あのマヨネーズは!てめェ、ケチャラーだったんじゃねェのか」
「‥‥ケチャラーだもん!あれは、その‥間違えて買っただけでっ、そんなんじゃあ」
ないんだよ、って言い終わる前にぎゅっと十四郎の体温に包まれた。
あまりに突然だったから、あたしの心臓はドクリと跳ね上がった。
「わ‥‥‥な、えっえええ!とっ、とーしろ!?」
あれ、なんだろう。
いつも自分から突き進み続けてきたから、突然の十四郎の行動にあたしは冷静でいられなくなっていた。
「‥‥‥‥ありがとよ」
消え入りそうな声だったけれど、たしかに十四郎の言葉を聞き取ることができた。
普段の十四郎とは違うけれど、あたしは何故かひどく安心してふっと笑みをこぼしていた。
そして、あたしも強く強く十四郎に腕を回した。
「っ、おい!!!!真央!!!」
銀時の声に、ハッと振り向く。
そこには拳銃を握りしめている男。カタカタと震える銃口は、確実に十四郎に向いていた。
「‥‥っ、十四郎!!」
十四郎を思いっきり自分の方から遠ざけるようにして、ドンっと突き飛ばした。
「なっ、何すんだてめェ!!」
パァアアアアン
鳴り響く銃声。
その直後、鈍い痛みと共に流れ落ちる赤い血液。
ああ あたし、
「真央!!!!!!」
十四郎を守れたね。
十四郎の声が、遠退く意識の中かすかに聞こえたような気がした。
やっと会えたね
握りしめた手の温もりは
やっぱり
あたしがほしかったものだった