「大串くんよォ、アンタそれでいいのかよ」
少し離れた場所から、銀色の髪をした男がため息混じりに呟く。
「‥‥テメェには関係ねェだろ」
その男が真剣な眼差しで目の前に立つものだから、苛立ちを覚えた。いつもは死んだ魚のような目をしてやがる、のにだ。
「いーや、関係あるね。おたくの女、こんなもん大量に買ってウチに溜め込んでるんだぜ?」
「はァ?」
「いや、だからさァ、やめてくれるように大串くんからアイツに言ってくんねェか?」
手には大きなビニール袋。というよりゴミ袋だ。中には見慣れた大量のマヨネーズが入っている。
「そうネ、こんな大量のマヨネーズ大迷惑アル!ついでに酢昆布買ってくるヨロシ」
「いや神楽ちゃん、そういう問題じゃあないからね?
土方さん、あなたから真央さんに言ってほしいんです」
銀時の後ろから、万事屋メンバーである神楽と新八がひょこりと顔を出した。
「知らねェよ」
「な‥!土方さん、アンタこのままでいいんですか!?」
「マヨ男だかマヨ女だから知らねェがよ、わっけわかんねーもん当てるために毎日マヨネーズ料理ばっかなんだよ!」
「ちょっと銀さん、マヨリーンですよ。適当な名前つけないでくださいよ、まったく」
「責任とって、真央に会いにいくネ」
いや、わかってんだ。
こいつらの言いてェことが。
けど、全部あいつが決めたことであって俺には何も言う資格なんざねェんだよ。
「‥‥土方さん、僕たちは真央さんを迎えに行きます」
「勝手に万事屋を辞めて結婚なんざ俺ァ認めてねーからよ」
「真央は、大切な家族アル」
歩き出す万事屋一向に、ただ背中を見送ることしかできなかった。
迎えに行く資格なんかない。
「チッ‥‥‥‥馬鹿女、」
気づくといつも何故か後ろに彼女がいて、相手にしなくてもいつもいつもトコトコ後を追いかけてくる馬鹿な女。
初めて会ったときから、ニコニコ嬉しそうに笑ってはずっとひっついたまま離れようとはしなかった。
「土方さん、アンタはほんとの馬鹿かもしれねェや」
「ああ!?おい、総悟。てめェ斬られてねーのか?」
「‥‥‥だから、昔からアンタだけは気にくわねェ」
総悟は、ひどく落ち着いた声で言う。そのわずかな変化に気づいたのか、土方はそれ以上何も言い返すことはしなかった。
――――いつの間にか、またあたしはあの時の同じようにいかにもといった感じの強面の男の人たち数人に囲まれていた。
たった先程、切らしてしまった材料を買いに買い出しに出たところなのだが。
「‥‥‥‥っ、」
「コンニチハ。真央ちゃん、だっけか。」
「‥‥‥‥」
「兄貴、この女っすか?」
「ヒャハハ結構可愛いじゃねーですか!」
「まあお前ら落ち着け。‥――オイ、約束を覚えてるだろうな?」
男たちの見る目がわざわざ気持ちが悪くて仕方がなかった。
我ながら、自分の手がわずかに震えているということに気づく。しかし、バレてしまわぬように必死で両手を握りしめた。
「なぁ、真央ちゃん‥?」
頬に伸ばされた手に、びくりと反応する。そして徐々に嫌な汗をかいていることに気づいた。
「何でもいうこと、聞くわ」
「あんたさァ、あの副長の女だろ?」
「あたしは、マヨネーズじゃなくてケチャップ派だって言ったじゃあないですか」
「ふ、あんた面白ェな。
ならよォ、俺の女になれよ。」
ずっと、ずっと、
あたしの世界は
十四郎だけだったんだよ。
届かない想いと声
(と、しろ‥‥‥
会い、た‥い、よっ)