追いかけて、追いかけて、それでもたまに振り向いて手を差し伸べてくれる優しいあなたが好き。
あなたが違う誰かを想っても、何かを理由にしてあなたの隣にいることができるならば、それ以上は望まないでいようと思った。
それなのに、それさえも奪われてしまうなんて、運命はどれだけ残酷なものなんだろう。
「銀さんん!!何なんですかそれ!僕たち何も聞いてませんよ!」
「そうアル!真央は、大事な家族ネ。簡単に受け入れちゃダメアル!!」
俺が話を終えると、人が変わったかのように荒れくれる新八と神楽。
「真央さん出て行ったって、何で止めないんですか!何か理由でもあるんですか!」
「そうネ、私真央がいないと寂しいアル!」
「あーうるせェよ。あいつが決めたことなんだから、ガタガタ言うんじゃねェ」
「でも‥!なんで、急に、そんな‥‥‥‥」
「もう、帰ってこないアルか‥‥‥?」
いつもあいつは、「十四郎、十四郎」って言ってたな。
相手にされなくとも、必死にあの男の背中を追いかけていた。
「結婚するらしいぜ」
「え、」
「‥‥‥母親に見合いの話を持ちかけられたらしくてな」
「じゃあ、土方さんは‥‥」
「奴のことなんざ俺ァ知らねーよ」
「真央さん、あんなに土方さんのことを想っていたのに、これでいいんですかね‥」
なんで、どうして、そんなん俺だって聞きてーよ。ここんとこ変わらずにニコニコ笑って、あいつと楽しそうにしてたじゃねーか。
「私、真央がいないなんて嫌ネ‥‥」
「しょうがねーだろ、それにあいつはもう昨日実家に帰ったんだよ。祝福してやれよ」
「‥‥‥そうかもしれませんけど。‥‥あ、銀さん電話鳴ってますよ!」
規則正しく鳴り響く電子音。椅子に座っていた銀時は、受話器を乱暴にとった。
「もしもしー万事屋ですけどォ」
「マヨリーン‥‥‥何か残念だったね」
「‥‥‥ああ」
「でもマヨリーンは十四郎の中に確かに生きてるよ!」
「‥‥‥ああ」
「ねートーシロー」
「‥‥あ?」
マヨリーン工場見学チケットを手に入れて見学したところ、夢みていたものはあっけなく現実へと追い返されたのだ。
まぁ、そんなものなんだろうと思ったけれど。でも夢だってみていたいものなのだ。
「あたしねー、実は今日、実家に帰るんだ、‥‥えへへ」
「な‥‥実家?」
「うん、そろそろお母様も寂しいだろうからさ、」
嘘だよ、
もう、十四郎にはあえないんだよ、あたし。
「そうか‥」
「うん、十四郎、あたしいなくても寂しがらないでねっ!」
嘘だよ、
あたしが寂しいわ。
「なっ、ならねーよ」
「トーシロー‥、あたしのこと、忘れないでよね」
これは本当に、
想っていること。
どうか、元気で、
サヨウナラ。
零れ落ちそうな涙を必死に抑えながら、あたしは、ずっと追いかけてきた愛しい彼の背中が小さくなるまで見ていた。
「よーし、新八、神楽ー支度しろ、支度」
「え、銀さん?」
「銀ちゃん、突然どうしたアルか?」
「細けーことは気にすんな、とっとと行くぞテメェら!」
もう、会えないけど、
それでもあなたを想って
あたしは眠る。
ずっと、
忘れないから。
愛すべき人よ
きっとこれで、
よかったのだ。