触れたくても、
触れちゃいけない。


昔とは違う今は、そう思うことしかできなくなっていた。













「真央?」


すぐにその声が紛れもなく、愛しい人のものだと気づいた。


「っ、しっ、静雄‥」

「お前こんなとこで何してんだよ。」

「えっと‥‥‥ちょっと、ぶらぶらしてただけ。」




ちゃんとに笑えてるだろうか。



「あぶねーから、一緒に回ってやろうか?」

「いっ、いいよっ、平気!」




あたしは、静雄が大好きだ。
でも今はその人の優しさに笑顔でありがとうと、言うことすらできなくなった。


それでも尚、あたしは彼のそばにいたいと思い続けている。





「え、おいっ!真央!」


突然駆け出した真央に静雄は、大きな声で名前を呼ぶが真央は振り向かない。





好きだけど、
触れちゃいけない。
そばにいては、
いけないのだ。






数ヶ月前に、彼は体に傷を負った。それも、カラーギャングに絡まれたあたしを守ったために。

そして新羅によって助けられた。
でも静雄は、オレの体は平気だからなんて言ううえに、あたしを一切責めなかった。

あたしに傷さえつかなければ、それでいいんだと優しく微笑んでた。





「っ、きゃっ!!」

ちょうど曲がり角で真央は誰かにぶつかった。

(う〜‥‥いてて。)


「あ、えと、ごっごめんなさい!!大丈夫ですか!?」

真央は、すぐに顔をあげてぶつかったとみられる人に勢いよく謝罪すると共に無事を確認する。




「俺だよ、真央ちゃん。」

「え‥‥‥」


目が合ったと思ったら、あたしの前で笑みを浮かべている臨也がいた。



「どうしたの、急ぎの用事?」

「いや、そんなんじゃ‥」

「ふぅん。じゃあ、シズちゃんにでも捨てられた感じ?」


ぴくっ


その言葉に声は出さないが反射的に顔が強張った。



「そんなんじゃ‥‥」

「まぁ、シズちゃんなんてやめるべきだと俺は思うけどねー」

楽しそうに笑う臨也。
さきほどの言葉によって、真央の目頭はじわりじわりと熱を増していく。




そんな時、だった。
軽快にポストが目の前を通過したのは。



「おっと、じゃあ真央ちゃん、俺はこれで引き下がるとするよ。またね。」


そう言って去っていく臨也も、真央の視界では揺らいでしかみえなかった。



(‥‥しず、お)








「いーざーやーくーんよぉ。池袋には二度とくるなって言ったよなあ?あぁ?こいつに手を出したらただじゃ済ませねーぞ、ノミ蟲野郎!!」


静雄、だ。
なんでここに、
なんで、なんで、
なんでなのだろう。





「ちっ‥‥おい、真央」


静雄の呼びかけにあたしは、うずくまったまま。肩でぴくりと反応するしかできない。


「なぁ、顔、あげろ。」

ふるふると首を横に振る。




「‥‥臨也の野郎に、何かされたんじゃねえよな」

静雄のいつもよりいくらか低い声に、今彼は怒っているのだと、真央にはわかった。


「‥ちが、う」

真央の言葉に静雄はまた軽く舌打ちをした。




「‥‥ったく、バカめ。わかってたけどよ、嫌いつーのなら、はっきり言え。」


もう、怒ってなくって、静かに彼は言葉を吐き捨てた。



「俺だってな、傷つくことだってある。」






なんで、なんで、
そんなに悲しそうなの。

どうして、どうして、
どうして‥‥
困ったように笑うのよ。





「わるかったな、」

ポンポンと静雄の手があたしの頭に優しく触れる。









「‥‥‥‥き、なの」




真央の小さな声に静雄は、不思議そうに振り返る。





「静雄が、すき‥‥なの」



涙でぐちゃぐちゃな目に、静雄がよくみえない。




「傷つけたくない‥。あたしのせいで、ボロボロになっちゃ、やだっ‥‥」


だから、触れないでいて
そばにいたりしないで

そうしたら
静雄は傷つかない。





「ったくよー‥、何なんだよ、手前は。」


静雄は、安心したように大きなため息をつく。


「好きなヤツ守っちゃいけねーのか?‥‥それによ、まぁ‥なんつーかそのために力があるんだと俺は思ってる。」

「し、ずお‥‥」





触れたい、
触れたい、
大好きだから。






「静雄、ぎゅってして、いい?」

「ったく‥‥」



あたしは、そのまま静雄の腕の中にすっぽりと収まっていた。
そして、安心したように涙は止んでいた。





「手前は、何も気にせずよ、そばにいりゃーいいんだよ」


ぶっきらぼうに、
だけど優しく微笑む静雄。







触れたくて、
触れることを恐れた。


だけど、今確実に
ふたりはつながった。

ずっと、
このまま。








このまま

離したりなんか、
してやんねぇーからな!


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