それでもオレは、
(それでもわたしは、)

あいつが好きで
(きみが好きで)















それなのに、
なのに、
オレは大切な一人の女の子を助けることすらできなかった。




「まぁさ、生きてたんだし良かったんじゃないのかな。」

淡々と言う折原臨也の存在は、今の正臣にとっては怒りの矛先でしかない。

そして、自分への怒り。



ほんとのところ、自分自身には何とも言えない怒りだけがただ募っていた。





「‥‥っ、くそぉ‥‥っ!」




黄巾賊とブルースクウェアの抗争によって、黄巾賊の将軍である紀田正臣の彼女がターゲットになり重症の怪我を負った。

しかし、それを自分が助けることはできなかった。
あと少し、あと少し、のところで情けないことに足が竦んでしまったのだ。


「あっ来てくれたんだぁ!」

正臣だとわかるとすぐに笑顔を向ける真央。

彼はなぜこんな自分に笑顔をみせるのかなんて知らなかった。


「学校はどう?楽しい?」


正臣自身、真央に近づくことを恐れた。なによりも彼女がまた傷つくことが怖かった。


「あー、まぁ。
紀田正臣は今日もモッテモッテなんだなぁ〜」

「へへ。さすが正臣だねっ!」




それでも彼女は、いつも笑う。
そうだ、怪我を負ったときだって、「大げさだなぁ、大丈夫だよ」って笑ってたっけか。





「杏里ちゃん、可愛いね。」

真央は相変わらず笑みを浮かべている。

「だろっ!エロ可愛いんだぜ、杏里は。」

そう言う正臣をみて、真央はくすりと笑う。






「ちょっとは元気でたみたいでよかったよ。」


いつもとは違う少し悲しそうな笑顔を浮かべていた。

彼女は、いつだってオレをみていてくれたんだと気づいた。




「正臣が、わたしに悪いと思ってここに来てるんだったら、もう大丈夫だよ。
これ以上、背負う必要なんてないんだから、ね?」





それは、彼女なりの"さようなら"を意味しているんだと気づくまでには時間はとくに必要なかったと思う。




「正臣、」





最初、別れを切り出したのはオレだった。
好きだけど、そばにいることを過去は許さなかったし自分も赦せなかった。





「好きだよ、

なんて‥‥‥ごめん、


えへへ」







それでもさ、

許されない過ちを犯してもだ、

やっぱり離せないんだ。





ただ笑顔がみたいんだ。









「ごめんな」






いつの間にか、真央はすっぽりと正臣の腕の中にいた。



「ま、さ、おみ?」


真央は抱きしめられていることに気づくまで少し時間がかかったようだ。



「‥‥離せねーよ。」




強く、強く、
抱きしめた。

消えないように、
放れないように、
壊さぬように‥‥。






「っぐ‥‥ふぇ‥‥っ、まっ‥‥‥おみっ‥っ」



泣かないで、
もう離さないから。





‥‥離せないから。









大切な人を傷つけて、
そばにいる資格なんてないはずだ。
許されない過去だ。

だけど、
また隣を歩きたい。







それでもオレは、
(それでもわたしは、)

またあいつと一緒にいたいんだ。
(きみの隣を望んだ。)







それでもオレは、
(浮気したらダメだよ?)
(‥‥)
(ナンパもだからね?)
(‥‥‥バカだな)
(へ?)
(オレの帰る場所は、ここなんだろ?)


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