さきほどからテレビの報道番組では、どの局も同じ話題で持ち切りである。
"聖辺ルリと羽島幽平の熱愛"その言葉ばかりが飛び交っている。いわゆるトップアイドルたちのスキャンダルというやつだ。
「はぁ‥」
あたしはテレビの電源を切ると、盛大なため息をついた。
それは一人のせいなのか、やけに静寂な部屋の中で響いた。
そして近くに掛けてあったコートを羽織ると、玄関へと向かった。
通い慣れた道をつかって、あたしはある人物の元へと足を運んでいた。それも、日課のようなもの。
「―――真央、ちゃん」
「コンバンハ」
「どうぞ」
玄関からヒョコリと顔を出したのは、容姿端麗という言葉がとても似合いそうな青年だ。と言っても、表情は一定を保ったままなのだが。
「お邪魔します、っと」
相変わらず無表情な彼は、先程まで熱愛報道で持ち切りだった"羽島幽平"というアイドル張本人だったのだ。
まあ今の彼は、"平和島幽"という一人の青年であると同時にあたしの恋人でもあるのだけれど。
「真央ちゃん、何かあった?」
揺るぐことのない瞳に吸い込まされそうになりながら、あたしは全部彼には見透かされているんだと気づいた。
「‥‥みたよ、テレビ」
「うん、そうだと思った」
「‥‥‥ッ」
無表情なまま淡々と言葉を紡ぎ出す彼に、心臓がドクンと高鳴った。
「それなら、」
「‥わか、れよ‥?」
「‥真央ちゃん」
胸の苦しみに耐えられなくなって、あたしは幽を押し倒すと強引に唇を奪うと彼の上に馬乗りする形になっていた。
「だ‥‥って、いつも、あたしばっかり‥‥!」
ボロボロと零れ落ちる涙。
それを抑えるために、幽の服を強く握りしめる。
「あたしばっかり‥好きで、」
幽は表情を変えることなく、真っ直ぐに真央の方を見据えていた。
「あたしばっかり‥‥ドキドキしてる、それに」
あたしが言い切る前に、幽によって唇は塞がれてしまった。
「違うよ」
状況を理解する前に、幽が言葉を発すると同時に上下が反転したと思うと強く抱きしめられる。
「俺だって、同じだよ」
トクン トクン
近いせいか、やたら幽の心臓の音が聞こえる。それも、不規則なリズムを刻んでいる。
「真央ちゃんが、近くいるっていうだけで、こんなに‥動揺してる。」
「‥か、すか?」
「心臓がおかしくなる、胸が熱くなるんだ」
抱きしめられていた力が緩まると、あたしは幽の顔を静かに覗き込んだ。
無表情だった彼の瞳に、かすかにだけど揺らいだ気がした。
「真央ちゃんがいないと、苦しくなる」
「ッ‥あたしのこと‥好き?」
「好きだよ」
「あたしも、好き」
強く抱き寄せられると、また幽の心臓を近くに感じることができた。
それも、あたしと同じ不規則なリズムを刻み続けていた。
トクン トクン
二人の鼓動が、今だけはひとつに重なったような気がした。
この胸の鼓動は
全部、全部
君のせいなの
愛しさゆえに
熱く焦がれる
▼初の幽くんです。
いやー可愛いな、もう!
兄思いな幽、弟思いな静雄。
平和島兄弟大好きです^^★
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