そんなことしなくていいですよ!と焦るセナくんを視線だけで封圧する。彼は弱い。年上相手に過剰にへりくだることは容易く出来ても、強気で返すことを心得ていない。
黙り込んだセナくんに満足しながら床に跪いて、流水でよく絞ったタオルを彼の裸足にあてがう。冷たさに反応してピクリと正直に体を震わせた。あろうことか下半身はパンツのみという素晴らしい格好だけど今更そういうことを気にする仲ではない。


「名前先輩、本当に、」
「いいの、やらせて」
「でも…」


尚も渋る彼を無視して丁寧に拭き上げる。足の指、踵、甲。ふくらはぎ。角張った膝。同じ"脚"というパーツでも女の私とはまるで異なっている。

(綺麗な脚)

しかしこれは誰もが恐れる凶器。フィールド上であらゆる人間を打ちのめしてきた、こわいもの。ただ走るという単純な行動が彼の存在意義。こわいけどいとしいもの。

まじまじと観察する。走ることしかしません、といった風体でくっついてる筋肉は実に美しい。性別問わず体毛の薄い人はいるけどセナくんもそうみたい。無駄なものは何ひとつないんだな、納得。
ベンチに座りっぱなしの彼はどうするべきかわからず恥じらいながら手を太もものところで上げたり下げたりと忙しない。夜になり誰もいない部室、みんな帰ってしまった。助けは来ないんだよ。

ふとやましい気持ちが首をもたげる。


「ん」
「!?」


先ほどのタオルとは比べものにならないほど動揺しているセナくん。それもそうか、私の手は怪しく彼の脚を這い、それを唇で確かめるように後を追う。ゆっくりじっくりと慈しみながら。こらえているのか言葉にならないのか、小さく漏れる呻き声がたまらない。愛撫は余計に丹念になっていく。
膝をカプリと噛んだところで見上げると案の定茹で蛸のごとく顔を真っ赤にさせたセナくんと目が合った。ぺろ、と軽く舐めあげてから唇を離せば唾液が糸を引く。また拭いてあげないと、とタオルに手を伸ばしかけて、止めた。視界に入ったパンツの中身がなにやら不穏な雰囲気だったからだ。


「……………」
「こっ、これは!違います!」
「なにが違うの?これなに?」
「あああ、うあー」
「可愛い!」


ショート寸前な彼にニヤける顔を隠しもしないで抱きしめる。体温が高いのは興奮してるから?興奮しちゃったんだ、あんなことで。


「男の子なのねセナくん」
「そりゃあ…そうですよ…」


諦めた風に脱力するセナくんは、私の手の行く末を視線で追っている。たくさん触れたおかげで残念ながら脚に対する執着心は丸く治まってしまった。すぐ傍らで彼の喉が鳴る。手はまだ目的を見つけられずさまよっている。さあどこに触れて欲しいの。