「名前、進くんと付き合うってマジ!?」


部活が休みの日でも行う自主練を済ませ、着替えて新体操部室から出た名前は程なくして親友に捕まった。告白されてからたった3時間しか経過していないのになぜもう周知の事実となりえているのか、そんな疑問は彼女の頭にはない。


「ああ、そういえば」
「そういえばって…え、そもそも面識あったっけ?」
「ろくに話したことも無いわね」
「じゃあなんで?」
「気分」


この親友の脱力する様を何度見てきたことだろうか。中等部から長く連れ添っているが、相変わらずあんたって人は…というお決まりの小言を呟かれ両肩に手を置かれる。


「どうしたの?」
「そりゃこっちのセリフだっつーの!今まで腐るほどいろんな奴に告白されてきたくせに全部瞬殺してたじゃない」
「そうだったかしら」


しれっとした顔で悪びれなく言う姿もイヤミにならないのは彼女がそういう風にできているからだ。


「そんなあんたが、よ。実は進くんのこと好きだったの?」
「いいえ。全く」
「…興味すらなかったわけ」
「あら、それなりにあるわよ」
「ほんとにー?」
「進清十郎。二年生、アメフト部所属で最有力選手。とにかく脚が速い」
「そんなのここの生徒だったら誰だって知ってるじゃん…」


脱力していると、肩に置きっぱなしだった手をするりと解かれる。


「一度だけ見たことがあるのよ、通りがかりの練習試合だったけど」
「ど、どうだった?」
「悪くなかったわ」


ふふ、とほんの少し口角を上げるその笑顔を一体どれほどの人間が欲するだろう。言葉を詰まらせた隙に「また明日ね」と決まりきった挨拶で上手く交わされてしまった。


「もしかしたら案外マジ…?」


首を傾げた親友の影が高く伸びる。日が落ちても名前は平素と変わらぬ生活サイクルで過ごした。進も同様である。ただ周りをひたすら驚愕させるだけさせて波乱を幾つも投下して、素知らぬ顔で眠りに着く。なぜこうも騒がれるのか、という疑問だけを共有しながらまた変わりない朝を迎えるのだった。