「なにやってんの留まさか」


翌日の昼、遠くにいる名前を見届けてから襖を閉めると伊作が半眼で俺を凝視していた。


「あんだよ」
「まさか友達がストーカーだなんて。しかも自分の彼女を」
「だってあいつ危険じゃねえか」
「君の方が随分危険だよ…そのストーキングスキル他に活かせないの」
「ばかやろう!あいつ以外の誰につけっていうんだ気持ち悪い!」
「気持ち悪い」


呆然とした伊作、復唱したのかと思ったらなんと俺に向けての発言らしい。気持ち悪いだと、更に「留はもっと常識あるかと思ってました」ときてそのあと「ごめん」まで添えられたら俺はもう何も言えない。間違ったことは一つもしちゃいないだろう、お前だってどうしようもないほど好きな奴ができたらこうなるだろう、なぁ伊作!なんだその冷めた眼は!


「あぁ、うん…呆れ通り越して感心してるの」
「俺は到って真剣なんだが」
「本当ね。痛いぐらいね」
「名前は目に入れても痛くない。むしろまばたきで閉じ込めたい」
「誰かーセコムー」


ばぁん!

伊作の棒読み発言を受けて襖が開いたのでマジもんでセコムかとびびったらなんてことはない、仙蔵だった。いやなんてことはあるがこいつは毎回毎回登場が喧しい。どうにかならんのか。


「なる訳あるか馬鹿めが」
「心情を読むな。ていうかどうしたんだ、お前から声掛けるなんて滅多」
「桶を五つ貸せ。入り用でな」
「…まず人の話を聞こうか立花くん」
「なんだ気持ちの悪い」
「気持ち悪いはもういいってんだこの野郎がぁぁ」


掴み掛かろうとしたが相手は立花仙蔵、そう易々許す筈もない。あっさり交わされついでに用具庫の鍵まですられていた。こいつ怖っ!


「そうカッカするな、今に文次郎になるぞ」
「ありがたくない忠告をありがとう」
「甘い物が足りないのか?調度良い、これをくれてやろう」
「は?」


唐突に押し付けられ思わず受け取ったのは掌に収まるぐらいの小瓶、中には強く着色された玉が詰まっていた。一瞬ビー玉と見間違ったが周りに粉末がついているのでこれは飴だろう。なんなんだ?意を図りかねていると仙蔵は顎をつんと上げて言った。


「大事な彼女にでもわけたらどうだ。ついでによく話し合ってこい」
「まさか毒入りじゃ」
「死にたいなら直々に手を掛けてやるが」
「すいません嘘ですありがとうございました」


もうすぐ午後の始業になる、その前に手渡してやりたい。急いで名前を探しに部屋を出た。





「…ありがとうね、仙蔵。最近の留ちょっと異常だったし」
「なに、あれはさすがに気持ち悪いからな。早々に対処してやらんと名前が可哀相だろう」
「仙ちゃんのそういうとこ好きよ」
「気持ち悪い」