網問ちゃんはたまに無神経な発言をする。


「引っ越しをするって決めたとき、馬鹿みたいに泣いたよなぁ名前」


思わずシャーペンの芯が折れた。前向いて座りなよ、と注意するより早く「本当すごかったよね」などと尚も続ける。

今は現国の時間、「小、中学校の思い出」と黒板に書かれた内容を配布プリントに作文している最中だった。網問ちゃんは振り返ってすぐ後ろにいる私の机の前で難しい顔をしている。いつものことだしご丁寧に椅子までこちらを向いている。二人分のプリントのせいで机が狭いんですけどと注意するのも、それこそ小中の頃からずっとずっと続いてきたことだった。


「それさぁ、いつの話よ」
「自分引っ越したくせに覚えてないの?小四ぐらいじゃなかったっけ…ほら、重が右足複雑骨折してたころ」
「あー、あったね」


狭い地域の小さな小学校だったから私も網問ちゃんも重も間切も同じクラスで六年間を過ごした。中学はもう少し人が増えて、高校はさすがにクラスが割れた。それでも2クラスしか無いけれど。


「ていうかそんな恥ずかしい話思い出さないでよもう」
「名前だけじゃん大泣きしたの」
「うっさい」
「間切の近くがいい!ってさぁ」
「うっさいっての!」
「ぎゃ!危ね!」


からかいに精を出し始めた奴の無防備な右手目掛けてシャーペンを振り下ろす。ぎりぎりで避けやがったので机に激しく打ち付けてしまった。

引っ越しとはいえ距離としては当時住んでたところから一駅先へ移動しただけで、全然たいしたことなかった。のに。


「私はあのとき本当に悲しかったんだよ…!」
「間切超キョドってたじゃん。重もビビってたし」
「…あんた爆笑してなかったっけ?」
「だってあん時の名前の顔出るもん全部出ててたからめっちゃ面白かった!」
「そういう発言に悪意0%なのが網問ちゃんのいいところで悪いところだよね」
「持ち味と言ってほしい」
「言わん!」


蘇る記憶。昼休みにでもネタに出そうか、いややっぱりよそう。間切が変な顔する。

会話に一段落付いたので真剣に考え出す。
中学の思い出…


「あ、間切の世話?」
「え、逆に世話されてたじゃん」
「うっさい!」
「ぎゃー!刺さった!」







ちなみに名前達のクラスの一時間前の出来事。


「これさぁ間切さぁ何書いてる?」
「後ろから話し掛けてくんなうぜぇ」
「いーじゃん自習なんだから」
「お前は?」
「俺ケガした思い出しか…」
「滅多に通らないトラックにはねられて奇跡の生還果たしてなかったか」
「右足複雑骨折で済んだやつね。ばっちり書きましたからね」
「その頃じゃねぇかあいつの引っ越し」
「引っ越しって……ああ!ああ、うわ懐かしー名前号泣してたなー」
「それ書こう、面倒くせーから」
「他にないの?中学は?」
「あいつの世話してた」
「ですよねー」