雨がしばらく続いていたが、いざ明けてみると咲いたばかりの桜が早々に散っていた。花びらを踏み付けて私は下駄箱から上履きを引きずり出す。間切は自転車を停めに行った。少し後から来た網問ちゃんが追い掛けていったので少し待ってみようかと思う。どうせ重はまた遅刻だろう。

高校生活もやっと三年目に突入した。不安群がる最終学年なのにまだ実感は湧かない。
新学期が開始してニ週間が経っていた。地域性ゆえ二つしかないクラス分けだが間切と重が一組、私と網問ちゃんが二組だった。間切とはずっと一緒だったからあーやっと離れたかぁぐらいに思ったけど、本人が傍にいないとわかることって結構ある。周りの評価だ。やたら上背があって髪が真っ金な間切については驚くほど言及された、特に女子から。

「間切くんと付き合ってるの?」

これはマセ始める中学のころからよく聞かれた質問だが、全くのガセネタである。私だっていっちょ前に男子に恋したことはあったけど対象は間切じゃない。私が知らないだけでもしかしたら間切だって誰かに恋したことがあったかもしれなかった。よくわからないけど。進路も含め、そういう互いの私情に絡んだ話はあまりしないから。

その間切、中身は至って真面目だ。授業なんか一度もサボったことがない。たまに私と重がサボるとなぜか絶対ばれて後で説教されるんだ、先生じゃなくて間切に。そんな奴だから成績もそこそこ良かったしスポーツだってあのガタイと身体能力じゃ敵無しだからそりゃもうよくモテそうなもんだ。でも間切は人とつるまない。会話はするしクラスの催し事にはちゃんと参加するけど、休日に誰かと遊んだりとかそういうのは無くて、それはまぁ家の手伝いがあるから仕方ないかもだけど。メアド知ってる人とかもあんまりいないんじゃないか。なんでかって?中身は真面目なんだよ、中身は。外見がねぇ、ちょっと。





「間切また絡まれたんだってさ」
「誰?先輩?」
「や、全然知らない大学生ぐらいのやつに」


放課後に網問ちゃんと自習していたら不意に話題に間切があがった。ろくでもない情報提供に力が抜けたが教室には誰もいないし別にいいか。


「髪明るいと目立つからじゃない?」
「目付き悪いし要素は充分ですねー…あ、そこ見して。わかんない」
「ん。最近ガラ悪い人多いねぇ。網問ちゃんってそういうのある?」
「いや、俺草食系なんで」
「流行りに乗っかるな」
「えー…ねぇこの文法合ってんの?使う単語違くない?」
「文句言う人には見せません」
「あーすいませんすいません」


英語ってなんだろう。二人で首を傾げた。まぁ予習するだけ偉いもんだよね?という網問ちゃんの情けない笑顔につられて笑う。返されたノートを鞄に突っ込んで支度した。間切はとっくに帰った。土日前は仕込みが忙しいようだ。

学校を後にすると網問ちゃんが自転車を転がして私の横に並んだ。この自転車は荷台もなにもないのでニケツはできない。すなわち私と帰るときは徒歩になるのだが、嫌がらず合わせてくれるのが彼の人間性をよく表している。
たまには歩くのもいい。気温は安定しているのがこの土地のいいところの一つだと勝手に思っていた。


「そういやさっきのさ、どうなったの」
「なにが?」
「絡まれた間切」
「そりゃもうKOして終わりですよ。二人組じゃあ敵じゃないでしょ」
「ああまたあいつはそういう…だからレッテル貼られんだよね」
「怖いってね」
「変わらないなぁ」
「昔は俺らのこと庇う為だったっけ」
「そう…だっけ」


暴力事件はよくないが学校側があまり深く突っ込んでこないのが救いだった。少なからず間切に対しての理解はあるようだった。優等生だし間切から誰かに喧嘩を吹っかけることはまずないからだろう。


「人徳ってやつ?」
「あー、ねー。でもやっぱ怖がられちゃうね」
「もうちょっと女子に人気あっても良さそうなのに」
「え?」
「え?」
「え、いいの?」


妙なところに食いつかれたので驚いた。


「なにが?いいよ?」
「いいんだ。へぇ」
「なんなん?」
「や、別に」
「ん?」


何が主題か見失ったところで網問ちゃんが携帯を開いた。しばらくカチカチしてから眉間にシワを寄せる。


「重また事故ったらしいよ」
「あいつ…」