あんまりにも勉強ができない人にたいする救済として補習は行われる。
地を焼く太陽。夏真っ盛り。ジーワジーワと蝉がうるさい。部活野郎以外は人気のない校舎、そう夏休み、…高校三年生。この時期に哀れみの目で補習絶対来いよな…って先生に言われてしまった私は果たして大学進学可能なのだろうか。今目の前に羅列している英語の長文読解よりもそのことのほうが遥かに大問題なんですけど。

そんな私にも、一人だけ仲間がいた。まったく心強いとはいえない。後ろに座っている、ずっと寝息しか聞こえなかったそいつの方から、不意に物音が届いた。


「ッアクション!」
「なに!?うっさいよ!」
「いや…くしゃみが…」
「すごいインターナショナルだね。アクションっつったよあんた」
「マジ?あーなんかいい夢見てた気ィするんだけどなー…起きちゃったよもったいない」
「帰れよ」


ガタガタと体制を立て直す音がする。振り返れば竹谷八左エ門が大きく伸びをしていた。全長を目一杯伸ばしているから机が小さく見える。シャーペンどころかペンケースすら出しちゃいない。もしかしたら持ってないかもしれない。補習にきて尚この態度、登校して出会った矢先(挨拶よりも先にだ)、先生いんの?って聞かれた。黒板には『16時までに職員室の机上へ課題プリント提出のこと』と書いてあった。いないっぽいよ、そう言ったらかばんほん投げてソッコー寝落ちた。八、進学希望じゃなかったか…?補習仲間である私が不安に感じた義理でもないが本人はいたってどうでもいいようで、あくびで溢れた涙をこすりながら語りかけてくる。


「そういやお前メールきた?」
「メール?なんの?」
「あれ?じゃあこれから来んのかな」
「だからなんなのさ、…あ」


机の端に置いてあった携帯が振動している。画面には

『受信メール:三郎』

なんだかいやな予感が。


「おっ、きたな!」


嬉しそうな八の声と同時にメールを開く。
そこにたった一言書かれていた内容はまったく脈絡のない、三郎らしいっちゃあらしい発言で。


「えーっ!?」





バンドやろうぜ!





ありえん。冗談にしてももっと面白いこと言えそうな奴だから逆に生々しいし本気が見れて怖い。
窓の外では夏が騒いでいる。どう考えどう返すべきか悩んでいたら八がとりあえずプリント写させて☆なんて言いやがったから教科書でぶっ叩いた。






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見切り発車すぎる…