「やれやれ」


穴から脱出した名前が全身の土を払いながら先を行く。綾部はだらだらとその後ろをついていったが、少しばかり歩いたところで彼女が立ち止まったのでそれに倣う。


「どうしたんです」
「そりゃこっちの台詞だって。なにかあったら溜めずに言いな。…今日のことは、まぁ、いいとして」
「わかりました」
「本当にわかってんのかなぁ」


苦笑する名前に早足で寄り、腕と腕を絡ませた綾部。これもいつも通りの光景で、喧しい滝や三木がいないだけ。それだけだった。
非日常に挑戦するのはもう止めようと綾部は思う。結局彼女には通用しないのだから。

綾部を横に張り付けたままで名前はあることを思い出した。


「そうだ、仙蔵が探していたぞ」
「何故です」
「…着付けの作法が、どうとかで」
「はぁ」


敢えて女物とは伝えず、綾部に紅色の着物はさぞ似合うだろうなと心中で名前は笑った。