仙蔵が委員会の後輩である綾部を探していた。これに暇人であるからという理由で名前も参加していたが、綾部なら呼ばずとも自然とくっついてくるのが通常であったから、何だかおかしいぞと彼女が首を傾げてみるのも仕方はない。疑問付を飛ばしながら手っ取り早く教師を捕まえて尋ねたところ四年生は本日実習のため外出中しているらしい、納得した仙蔵は肩を落とした。


「なんかあんの?委員会とか?」
「いや、倉庫掃除をしたら上等な着物が出てきたんだ。紅色が主だから綾部に似合うと思ったんだが…」
「着せるつもりだったわけ。ていうかそれって女物じゃあ」
「何か問題でも」
「カマ委員会」
「死にたいのか?」


鼻先で薄ら笑った仙蔵を尻目に名前は素早く退散した。去り際に舌打ちが聞こえないでもなかったがまだ死にたくはない、せめて彼氏を作ってから死にたい、などとわびしい気持ちを携えながらあっという間に裏庭まで到達する。また脚力が強まった気がするな…と喜ぶべきか悲しむべきか悩みながらも特にやることもないので適当に歩いていると、微かに人の気配を感じた。名前は足を止めそれとなく気を張って辺りを探ってみるがどこにもいない。いない風、だが確実にいる、気持ちの悪い空気だ。


「誰だ?」


少し声を張り上げてみたが風が悪戯に吹くばかりで返事はない。これだけ無防備に突っ立っているにも関わらず相手に動きがみられないあたり、敵でもないだろう。判断して早々に立ち去ろうと踵を返した。途端。


「せーんぱーい」


名前はずっこけた。緊張感のまるで無い響きも要因だが、それが何より聞き覚えのある今まで探していた後輩の声だということに驚いたのだった。


「綾部?」


しかし姿がない。周囲を見回しながら声の聞こえた方向へ行くとぼうぼうと茂る草むらがあった。手入れのない無法地帯らしく、長い草では腰の丈程もある。掻き分けながらもう少しだけ進むと、前方の地面に不自然な穴を見つけた。結構な大きさである。覗いてみれば、やはりというか綾部がいた。いたにはいたが深い穴の最下部でぽつりと体操座りをしてこちらを見上げている。


「ここです」
「えぇと、何から言えばいいのか…」
「なんでもどうぞ」
「どうしてそんなところに」
「穴を掘っていたら出られなくなりました」
「人が通りかからなかったらどうするつもりだったんだ」


名前は軽い頭痛を感じた。もう夕陽は傾いているというのに。恐らく実習帰りだったのだろう、なんていうか顔も服もなにもかも汚かった。疲れているだろうにわざわざこんな業に及ぶとはよほど穴掘りが好きなのか。中毒の域ではないか。

名前の問に対しその時はその時で考えます、というなんともマイペースな発言に今度は胃のあたりが痛むのを感じながらも、とりあえず見つけられて良かったと安堵して地面に膝を着いて手を伸ばした。地中で冷えたのか温度の低い手が掴まる。なんとか届く距離の、辛い体勢で名前は綾部を引っ張ろうと腕に力を込めた。

筈、だった。