(今日も捕まってしまった)


前を行く三人組。なんとなく気後れしている名前が徐々に速度を落としたのかもしれなかった。滝夜叉丸と三木ヱ門は食堂でどちらが名前の隣に座るに相応しいか口論している。両脇に落ち着くという丸い考えは端から無いらしい。当然自分がそのポジションに座るべきだと思っている綾部は罵り合いには参加せずに頭上に浮かんでいる雲がなんだかウンコみたいだなぁとぼんやりしていた。
名前はといえば、あぁまた喧嘩してるな…と呑気に状況を眺めていて、制すべきか放っておくべきか悩んでいるところで背後に気配を感じた。隠しもしない堂々たる雰囲気、心当たりは一人しかいない。


「仙蔵か」
「毎度ご苦労なことだ」


振り向けば、彼はくつくつ喉を鳴らして笑った。長い髪が風に揺れて美しく存在を主張している。くの一教室でもかなりの人気を博す男子だが、名前にはこの根性悪(言い換えれば良い性格ともいえるが決していい意味ではない)のどこがいいのかよくわからない。所詮顔というやつか。

もう言い争いは聞こえない。ずいぶん先へ行ってしまったらしい。
どう返すべきか逡巡する間を縫ってまた風が吹く。苦労、といえば確かにそうなのだが。


「そう思うならどうにかしてくれないか。綾部はお前の配下だろうに」
「残念なことにうちは自由奔放主義だから無理だ」
「初めて聞いたよそんなの」


ため息を吐きながら名前が綾部に託されたシャベルを放り投げると、仙蔵の生白い指先が流れるようにそれを掴んだ。一つとして無駄なき仕種に、出来る奴は出来るように最初から出来てるんだな、と茶化して言うと、その言葉はそのままお前に返すと言われた。世話焼きな奴は世話焼くように出来ている、と。


「そりゃ結構だね」


これ以上続ける会話もないので、名前は身を翻して後輩たちの後を追った。不用意に姿を消すと大々的に捜索されかねない。親友の笑い声は耳に残ったが、すぐ喧騒に呑まれて見失う。なぜか綾部まで混じった掴み合いになりかけていたので慌てて制して「仲良くしろ」と諭せばおとなしく頷く。キラキラした眼差しを浴びながらこれはやはり世話焼きに課せられる苦労なのかと肩を落としてしまった。