こんなことがあった。

二人で饅頭を食っていたら最後に一つ余ったのでじゃんけんをした。俺が勝った。敗因であるパーを見つめながらしょぼくれている名前に半分差し出したら、ぽかんと口を開けた。


「ていうか最初からこうすりゃ良かったんだよな」


馬鹿だなーと片割れを口に納めながら言うと、名前は暫くほうけたように饅頭を見つめてからボロッと涙を零した。まさかそんなリアクションで返されるとは万に一つも思わなかった俺は驚きのあまり饅頭を喉に詰まらせてしまいちょっとした限界点を見てしまった。名前の悲鳴が遠くに聞こえる。まだ死ねない、こんなことで死にたくない、学園卒業して名前と暮らして平和に老いて死にたい…

老後までの人生計画によりなんとか気を取り戻して肩で息をしていると、小さい手の平に乗った饅頭の片割れが目に映る。


「ど、どうぞ…」
「なんで!?あげたんだからお前が食えよ!」
「ごめんなさい!」


ありがたくいただきます…と恭しく両手を合わせて涙ながらに名前は饅頭をかじった。俺は神様か何かか。あらゆることにたいしてツッコミがままならない。分けた饅頭を申し訳なく思っているのかはたまた人の死ぬ瞬間(未遂)を間近で見たからか、体を縮こませてかじりついている様子はまるで小動物だった。口許にはあんこがついている。


「け、けま、くんの」
「無理して喋んな、詰まるぞ」
「食満くんの優しさは、世界を救えるよね」
「あ、」


アホか!
ではなく。


「……ありがとう…」
「えへへ」


どうしてこうもむず痒いのか。名前が赤面するのはしょっちゅうだけどさすがに今のは俺も赤面する。饅頭一つで大袈裟すぎだろ、優しいとか、こんなになるのは本当お前だけだっての。