被害報告をします。
食堂で並んで夕食をとったときの出来事。


「食満くん」
「ん?」
「この煮っ転がし、美味しい!」
「そうか。くれ」
「え」
「くれ」


くれと言われて特に断る理由もない、けれど食満くんは私が差し出した小鉢には目をくれずにむしろ閉じて、代わりに口を、く、口を開けた。
ええええなにこれ食べさせろってこと?それはないよね食満くん!だって他の人も見てる…


「早く」


急かされて慌てた。成す術なく機械的に煮っ転がしを箸で摘んで(に、逃げないで…!)、震える手をもう片手で押さえながら食満くんの口へ運ぶ。食べた瞬間に目を開けて笑ったのでちょっとだけ安心した。


「んまい」
「よ、よかったね」


恐ろしく恥ずかしいことをさせられて心臓が裏山ランニング完走レベルに脈打っている私に食満くんは更に追い打ちを掛ける。


「じゃあお返し」
「いっいいいいいいよ!結構です!」
「美味いぞ、だし巻き。ほら」


もはや絶句、という形で開いた私の口に難無くだし巻きが突っ込まれた。反射で閉じて咀嚼すると食満くんがにやにや笑いながら見ている。何が楽しいんだろう。極度の恥ずかしさにより頭が沸騰した私は、だし巻きは勿論残りのご飯すら味がわからなかった。おばちゃんごめんなさい!

顔が熱い。頭痛もする。とっくに食べ終えた食満くんは机に頬杖つきながらまだにやにやしていた。顔を背けてお茶を流し込もうとしたら案の定引っ掛かってむせてしまい、背中をさすられる。何から何まで私はもう…

たまに食満くんは強引だし意地悪だな、と思うけどそれがあんまり嫌じゃない。どうかしてるかも、なんて。