ある日のこと。
自室で黙々と忍具を磨く俺、その横で薬の調合か鍋を掻き混ぜている伊作、そしてなぜか転がっている小平太。時折ごろりと寝返りをうちながら何かの冊子を眺めている。周辺にはすでに巻物が散らかっていた。またこいつは片付けもしないくせに勝手に人のもん広げてくつろぎやがって…
しばらく無言で過ごしていたが突然小平太が体を起こして叫び出した。


「なんで食満にだけ彼女がいるんだよおーうおうおう」
「うるせぇな。部屋帰れよなんでいるんだよ暑苦しい」
「えーだってここ変なもんいっぱいあって面白いんだもん。あーあ、いいなぁ名前!名前!」
「気安く連呼すんな」
「つまるところ羨ましい!」
「解せないよね。名前ちゃんがもう一人いたらいいのにねぇ」


存在感の無かった伊作がぼんやり鍋を掻き混ぜながらも会話に乱入してきた。とんでもねえことを言いやがる。


「馬鹿!やらねぇよ!もう一人いてもやらねぇよ!」
「言うなぁ」
「でもさすがに名前ちゃんが五人、六人いたら留も手に負えないでしょ?」
「そっそれは…」


想像してみた。


「…そうかも」
「じゃあ一人もらおう」
「私もー」
「だからやらねぇって――!」

「お前ら、間抜けな会話が廊下にまで筒抜けているぞ」

「あ、せんぞー」
「またややこしい奴が増えた…」
「心外な」


常識的な顔をして常識の無い仙蔵はふわりと髪を風に流し、ずけずけ入ってくる。帰れと言っても帰るタマではないしもうどうでも構わんが外れた襖はせめて戻していただきたい。


「お前はいいだろ、女子とっかえひっかえしてんだから」
「人聞きの悪い。大体向こうから寄ってくるんだ、私は知らん」
「出ましたモテ男発言」
「しばくぞ伊作」
「ごめんなさい!」
「じゃあ本気で好きになったこととかないの?」
「どちらかというと他人の物が欲しくなる方だな」
「それって」


ニヤリと笑う仙蔵を前に、俺の顔は青くなったに違いなかった。


「そうだな、おい留三郎、可愛い女子を紹介してくれ。背を丸めて下ばかり見ている挙動不審な」
「やめろぉぉぉ」








「名前!」
「あ、食満く…」
「お前絶対絶対分身の術とかそういうの覚えるなよ!」
「え!え!?」






「留からかうと面白いよなー」
「そうだな」
「いいからもう帰ってくんない二人とも…」