「人前でああいうことすんのやめてって言ったじゃん!」


びっくりして袋を地面に落とした竹谷は、私を見ると大きな目を真ん丸くさせた。そんな奴の足元へ予期せぬ撒餌に群がる虫達。中にはグロテスクなものもいて、普段なら悲鳴を上げるところだがそうしなかったのは怒りが心頭にまで達しているからだ。こんなのは久しぶりだった。竹谷は口を尖らせる(しかも全然可愛くない)


「まだ怒ってんのかよぉ」
「だって、あ、あんな…後輩も一杯いたのに…」
「キスしただけじゃん」
「人前でしなくてもいいでしょ別に!」
「俺そのあと気絶したんですけど」
「私悪くない」
「まだ後頭部痛いんですけど」
「悪くないもん」


大袈裟にやれやれと言いながら、しゃがんで残り僅かとなった餌をばらまいた竹谷だが呆れたいのは私のほうだ。愛情表現は別に構わないけれど加減を知らないところがどうしても許せなかった。毎度毎度。やめてと言ってるのにこの男は。


「もう二度としないで」
「何回も聞いたなぁそれ」
「何回も言わせないでよ」
「お前純情すぎんだよ。てかぁ、俺は別にさぁ」
「ここはひとつ孫兵に」
「待った!ごめんなさい!」


このタイミングで孫兵を挙げるとは暗に毒殺と言ってるようなものだ。私は仲が良いから、ジュンコもキミコも喜んで貸してくれるだろう。それを知ってる竹谷は見上げる顔を青くして足首を掴んできた。とてもうざいし加減を知らぬ馬鹿力で私の足首が折れそうだったから、それ以上反抗する気が湧かずため息を吐くだけに終わった。


「愛想尽かした?」
「そろそろね」
「好きって言ってよ」
「………」
「言わないんだったら、」
「…好きだよ」
「俺も!好き!」


ぎゅうと抱きしめられる。相変わらずテンションの上がり具合がよくわからない。嬉しそうに跳びはねているけど虫達を踏み潰してはいないだろうか。

結局どう足掻いたところで竹谷とまともな恋愛など出来る筈がないのだ。
毎度毎度、今更だけれども。