「くっそぉぉぉ…!」


顔を赤くしながら力を込める私に対し、涼しげな表情で長次は言った。女の子がそんなことを言ってはいけない。私は長次を睨みつける。こんなことを言わせてるのは紛れもない長次なのだから。


「も、もう一回…!」
「…何度やっても同じだろう」
「勝つまでやめない!」


大袈裟にため息を吐いた長次のごっつい手と私の手が机上で組み合わさる。始め!という掛け声でお互い同時に力が加わり、私の手は本日何度目かの机との対面を果たした。私と長次は腕相撲の真っ只中だった。また始める。倒される。始める。倒される。何回繰り返したのかもう覚えていない。


「…どうしてそんなに躍起になるんだ」
「教えなーい」
「…………」
「痛い痛い痛いすいません言います力抜いてください!…こへと団子賭けてるの、一回でも長次に勝てたらこへが団子奢ってくれるの」


また始まった勝負事の中、長次は暫く目を細めていたけれど、不意に名前を呼ばれたので顔を上げたらいきなり口付けられた。脱力した手の甲はあっさり机に平伏して動くことはなかった。そんなのずるすぎる、反則じゃんなどと抗議することもなく唇はただ重なり手は合わさっていた。