…お前わざとやってんのか?わざとじゃないよ故意だよ。それをわざとって言うんだろーがノータリン。たりてますハゲ。ハゲてねーよ。いやハゲてるよここら辺。しつこくハゲハゲ言うな!ここら辺とか生々しい!やめろ!


激を飛ばされ ぶつり、と会話が途切れた。
やがて背中から離れた彼女に文次郎はこれ見よがしなため息を溢す。

外は雨、中は湿気で暑いというのにわざわざ背中へ張り付いてくる意味がわからない。それが愛情表現というならまだ許せようものがこの女、先ほどから「暑いだるいうざい」の三文句しか繰り返さないからいけない。
代表擬音が『じめじめ』の梅雨という季節だから暑いのは当然だし自然摂利に不満を述べても仕方がない、文次郎はそう割りきっていた。割りきったからこそ背後から延々と呪詛の如く呟かれる愚痴が許せなかった。そもそも委員会の後始末をやっているのだからいくら彼女とて邪魔なものは邪魔だった。しかも暑い。それでも耐えて耐えて耐えて黙認していたというのに、


「誰がハゲだ」
「気にしてんの?」
「してない」
「なに苛々してんの暑苦しいうっぜー」
「だったら張り付いてんじゃねえよ!」


畳に転がった彼女は見上げる。


「それは、文次郎が好きだから」


軽く出されたその言葉に文次郎は呆気に取られて目を見開いた。
お前、それは…
ごにょごにょ口ごもる文次郎とバツが悪そうに畳に頬を押し付けた彼女。
蒸し暑い室内、変な雰囲気、真っ赤な顔の二人。