自室に転がっていた三郎の足元に気配。身を起せば雷蔵がいた。
どうかしたのか尋ねれば、少し気恥ずかしそうに「あの子さ…」と切り出す。
あの子、というのは話題にするだけで雷蔵の耳まで赤くさせる想い人の名前を指している。


「なに?探してんの?」
「うん、あっ別に大した用でもない…けど…」
「(わかり易いなぁ)名前なら、あー、裏山に用事あるって言ってた」
「ありがと!」


慌ただしく雷蔵が去ったのを見届けてから、三郎は重い腰を上げた。




一方、くの一長屋にて。


「おい」
「あ、三郎。なに?」


読んで振り返ったのは名前。雷蔵の想い人で探し人である彼女の元を三郎は訪ねた。


「雷蔵がお前を探してた」
「へぇ、それでその本人どうしたの?見えないんだけど」
「訳あって裏山へ」


裏山?
すっとぼけた風の三郎に不審な視線を寄越し、暫くしてから名前は状況を察してため息を吐いた。


「……意地悪だねー」
「だってあいつ面白いじゃないか」
「悪趣味だよ」


わからなくもないけど、という彼女の付け足しにお前だって悪趣味じゃないかと三郎は思った。




その頃、裏山にて雷蔵は盛大に迷っていた。
目前には分かれ道、名前がはたしてどちらの道を選んだのか皆目見当が付かず、しかし戻って尋ねたところでさすがの三郎もこの先の行方はわからないだろう。
八方塞がりというやつだ。


「どっちだろう…」


半ベソでたっぷり考えた後、途方に暮れつつ右の道を選んだ。名前に会いたいが為に必死な雷蔵は上空の木が不自然に揺れているのに気が付かなかった。


(右だ、右行ったぞ)
(了解ー)


密かに先回りをした影は雷蔵の前に正体を現す。


「やっほー雷蔵くん」


うわぁ本当に嬉しそうな顔してる。

不安から一転して明るくなった雷蔵の表情に彼女もありったけの笑顔で返した。