思わず見とれてしまう。
「おい」
「…………」
「おい、熱でもあるのか」
「はっ」
「早く食わないと置いていくぞ」
ず、と味噌汁をすする。私は慌てて箸を動かした。
正面から送られる呆れた視線が身体に突き刺さる。
仙蔵の食べ方は美しい。
箸の持ち方も綺麗だし、食べ溢しなんて一切ない。
まさに人類の手本と成り得る、そんな食べ方だった。
こっそり窺うとやがて仙蔵の箸も動く。
焼けた魚の皮を剥がしていく。現れた身をほぐす。
そのうち少しばかり摘むと、薄い唇へ運ばれて身は消えた。
決して大袈裟には動かない口元。
私は見とれる。
そして何も食べていないのに喉を鳴らした。
訝しんで細まる、眼。
「…ごちそうさま」
「え、うそっ」
「何が嘘なものか、愚か者」
確かに彼の皿はこちらに真っ白な腹を見せ付けていて、完璧に食事は終わっていた。
対する私はまだ半分も食べていない。
仕方なく誤魔化し笑いを浮かべると、それを一瞥した仙蔵は席を立った。
「ちょっと、」
「先に言ったとおりだ、置いていく」
待ったも聞かずに長い髪を翻すとさっさと行ってしまった。
一人残された私は、せめて残りは仙蔵のような食べ方をしてみようと試みたが、ものの十秒ももたずに断念した。
思い出す、箸の軌跡。
優雅に運ばれては消える白米、漬物、魚の身。
あれらは全て飲み込まれたのだ。仙蔵の喉を通して。
そんなことを考えてまた手が止まっている。
向こう側にある魚の骨に笑われた気がした。