情報氾濫は侮れない。嵌ったらそれでおしまい。嘘吐きとか化かし上手とか、言われ慣れているからこそ、わからなかった。
じぃ、と見ている。刺す程の視線を受けて背中が少し汗ばむ。決して悟られてはならない、自分は彼女に愛を囁くだけで安全が保障されているのだから。誰だって甘い水を飲んで暮らしたいだろう。
「三郎」
「…なんだ」
「私のこと好き?」
「あぁ、好きだよ」
「…嘘だよ」
そんなの当たり前だ。それなのに目を丸くして意外そうな顔、身の保持。私はずるい。
青い顔色の彼女を前に沈黙。
「なぁ」
「なに」
「私にはわからない」
黒目がかち合う。本音をぶつけるのは最初で最後かもしれない。
ため息と返事。
「なにが」
「……お前が、」
皆まで聞かずに名前は胸元へ滑り込んできて、頬を押し付けた。
自分が黙ることを知っててそうする、汚い手だと思った。
背を撫ぜれば呼吸に合わせて上下する体。思い出なんて何もいらなかったのに、そうさせてくれないのは全て名前が悪いのだと、ただ妄信して諦めた風に目を閉じる。悲しみを遥かにしのぐ愛で満たされていた。
「好きだよ」
情報氾濫はまやかし、身を滅ぼす。